市町村合併を考える
門真市民公開シンポジウム
報告・記録集
ご 挨 拶
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脊戸 隆
(門真市職員労働組合執行委員長)
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主催者を代表いたしまして一言ごあいさつ申し上げます。本日は公私なにかとご多忙のなか、私ども門真市職員労働組合主催・市民公開シンポジウムにお運び下さいましてほんとうにありがとうございます。またコーディネーターの政井さん、シンポジストの栗山さん、小林さん、重森さん、正井さんにおかれましては、お忙しいなかほんとうにありがとうござます。
さて昨年12月、突如、「守口・門真合併へ本腰」という報道が一部新聞紙上でされ、また本年3月には「来春にも合併」との報道で市役所内はもとより、市民、各界、各層の皆さんの間に不安と動揺が広がっております。
国は今回の市町村合併を「平成の大合併」と銘打って、1995年に市町村の合併に関する法律、いわゆる合併特例法を改正いたしました。また、地方交付税算定特例期間の10年間の延長、合併特例債などと、さまざまな財政支援策を用意し、2005(平成17)年3月末を期限に、現在の3200有余の自治体を1000を目標に合併を進めています。
いまの国会では、住民発議による合併協議会設置協議の議案が議会で否決された場合、有権者の6分の1以上の直接請求を経て、合併協議会設置協議についての住民投票を行い過半数の賛成があった場合「可決されたとみなす」という、地方自治法の改正も行われました。
総務省は3月に片山大臣が全国の市町村長と議長に送った手紙で、「平成14年度はきわめて大事な1年であり、正念場の年」と合併を早急に推進するようハッパをかけるとともに新たな指針を通知し、押しつけ路線を進めています。
翻って門真と守口の合併の歴史をひもときますと、古くは昭和初期から昭和40年代初頭まで、実に7回に及ぶ合併議論が行われてまいりました。その圧倒的理由は「財政難」でした。とくに1951(昭和26)年に、門真町と庭窪村の守口市への合併問題で、門真町で住民投票が行われ、反対多数で「合併をしない」と判断が下されるなど、住民を巻き込んだ先進的な歴史がこの門真にもあったことを、今更ながら先人の偉大さに脱帽いたすところです。
いま地方自治体をとりまく環境は、財政状況の厳しさとは逆に、急速に進む地方分権の波、そして、ますます高まる市民ニーズへの対応が急速に迫られています。このことは門真市におきましても例外でなく、私たち自治体職員にとりましても今や大命題となっております。
この市町村合併問題は住民生活、地方自治体のあり方を根本から問う重要な問題であるがゆえに、住民の皆さま方同士、また私たち職員と合い交え、口角沫を飛ばして議論をし、慎重に門真の行く末を選択していくことこそが、いまもっとも求められているのではないかと私たちは考えています。
私ども市職労では従来の「まちづくり研究会」に加え、4月から合併問題の調査・分析活動に着手し、本日の資料にその成果の一部を同封しております。また、今月末には完成し、来月早々には発刊の運びとなっております。
合併の問題は特例法第1条にも謳われている通り、「市町村の自主的なもの」であることが厳しく求められなければならない、と私たちは考えています。市職労は中央からの合併の押しつけに断固反対の姿勢を貫きつつ、住民の皆さまに合併をめぐる状況や情勢を正確にお知らせし、あくまでも議論を通じて結論を導き出していくことを基本に、さまざまな形で奮闘することにしております。
本日のシンポジウムが合併問題を考えていただくきっかけにしてくだされば幸いに存じます。本日はまことにご出席ありがとうございます。
市町村合併を考える
門真市民公開シンポジウム
●コーディネーター
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政井 孝道 氏
(元朝日新聞論説副主幹・紀伊民報編集局長)
1965年朝日新聞社入社。大阪社会部、東京社会部各次長を経て、論説委員に。主に地方自治、都市計画、環境、人権問題を担当。論説副主幹編集委員を歴任し、2001年定年退社。同年、紀伊民報入社、02年4月から編集局長。
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●シンポジスト
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栗山 和郎 氏
(関西経済連合会理事・企画調査部長)
1971年関西経済連合会事務局入職。調査部主任研究員、調査部課長を経て、2001年から理事・企画調査部長。関経連で、一貫して広域行政や地方分権問題を担当し、提言や調査報告書を発表。国の臨時行政改革推進審議会(第三次行革審)の最終答申において、地方分権部分の検討・起草作業の実質的な事務局の役割を務める。
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小林樹代史 氏
(山口県下松市職員労働組合執行委員長)
1984年山口県下松市入職。1986年同市職員労働組合執行委員長に就任。書記次長、書記長を歴任し、1997年執行委員長に就任。1986年からの周南合併の動きに自治体職員労働組合の立場から関わる。
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重森 曉 氏
(大阪経済大学教授・門真市職労まちづくり研究会座長)
1972年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。高知大学理学部講師を経て、1980年同大学人文学部教授に就任。1983年より大阪経済大学経済学部教授。1996年大阪自治体問題研究所理事長就任。2000年に発足した門真市職員労働組合まちづくり研究会の座長(代表)を務め、門真市の現状分析に携わる。
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正井 昭夫 氏
(大阪府市町村課課長補佐〔分権・合併グループ〕)
1981年大阪府庁入庁。環境保健総務課企画係にて主査、係長を経て、1995年よりソフト産業振興課国際経済室企画班長を務め、関西国際空港事業に関わる。以後、東京事務所主幹、健康福祉総務課課長補佐(企画グループ人権担当)を経て、2002年市町村課課長補佐(分権・合併グループ)。
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●司会
コーディネーター/政井 孝道氏
(紀伊民報編集局長)
夕方のお疲れのところご苦労さまです。私はいま和歌山の田辺というところに本社がある小さな新聞社で仕事をしています。最近選挙で合併めぐって首長が代わるという、日本でもたいへんめずらしい動きがありました。
任意合併協議会と言いまして、田辺を中心に「10市町村で1つの市になる」という話が首長のところで着々と進んでいました。その中の1つの白浜町長の選挙があり、「絶対合併しない」という町会議員が当選して、だれも予想してなかったので大慌てで...。
「合併しないと言っている町長さんが出てきたら、あとの9市町村はどうするのですか?」「すぐに対応できない。時間的余裕がほしい」と言うのが昨日の新聞です。というのは、法律にもとづき法定合併協議会というのを7月に立ち上げ、あとトントンと合併を進める予定であった。白浜というのは田辺市についで大きい町です。その白浜の町長が「合併しない」となったら全体の構想が崩れてしまう。つまり合併というのは、自治体の首長選挙を左右するでかい話ということです。
合併の話は去年の暮れからまだ動き始めたばかりですが、人々の関心がすごく高い。はじめは新聞記者のぼくらが取材に行っても、たとえば「合併特例債ってどんなんですか?」というような質問だけしかなったけど、いまはどんどんすごいです。
田辺市なら何十カ所、市町村が全部出向いて説明に行きます。そうすると単に市長の説明を聞くだけでなくて、みんな自分の意見をいう段階になっています。相当エキサイトした議論がどこの町でも起こるとぼくは予想しています。
きょうのシンポジウムで議論が行われる門真市のことについて、「商工会議所等の経済界の一部の方は合併推進の要望書を出されるなど勉強会もだいぶ進んでいるけども、マスコミもほとんど報道していないので多くの方はまだよく分かっていないと思う」というのが市職労の委員長さんのお話でした。
ぼくは以前に朝日におりましたが、朝日などの大新聞では、門真だけのことをいっぱい書くということはありません。そういう意味では紀伊民報みたいな新聞は地域に根ざしていますから地域に密着した合併の記事などは毎日のように載り、住民もどんどんと考えるようになってきます。
大体、都会のほうが情報公開などが進んでいるし、住民もよく意見をいいますし、論議の水準は高いんです。ただここへきて、ぼくは一概にそうではない。都会はマスコミも市町村が多すぎて報道しきれてない。また田舎は大きな市と小さな村の格差が大きいので合併すると一体どうなるのか?介護や福祉の問題にまで住民は真剣に考えています。
その点から、大都会はよく似た自治体が1つになるかならないかで変わらないだろうと考える。すべて考える雰囲気はたぶんないし、マスコミも報道しない。両者が相まって非常に情報公開が足らないし、新聞記事を見てもほとんど載っていない。これはまずい。
議会が議論して市の広報にでもたくさん載せているかというとそうでもない。3月13日、「お互いに合併相手の名前を名乗った」という記事が載っているだけで、かなり熱心に勉強している人と、していない人の落差があり、町が非常にいびつなことになっていくのでは?と心配しています。
情報のレベルを早く同じところまで上げなければならない。そういう意味で市職労がこういうシンポジウムをされた、というのは非常にいいと思う。市職労に対していろいろな見方もあり、なかなかフランクには出て来れない雰囲気もあるのでしょうが、われわれ全くフリーですから...。
さきほど市職労の委員長が、「かつて合併を住民投票で拒絶したのを非常に先進的だ」という評価をされました。ぼくは先進的かどうか知らないでの、そういう評価にとらわれずにシンポジウムを進めたいと思います。
きょうはシンポジストとして、遠くは山口県下松市職員労働組合の委員長さん、関西の経済界をまとめている関経連の調査部長さん、門真市職労まちづくり研究会の座長をされ門真の実態調査をされている重森先生、そして全体をみている大阪府市町村課課長補佐の正井さんにも来ていただいていますので、かなり幅広いお話になると思います。
まず合併に関心をもっていただくのに。自分の町が今、どういうふうに動いているのか、というのが根本だろうと思います。最初は門真をめぐるいまの状況、問題点、どこへ行こうとしているのか。そして、そういう門真をめぐる動きが全国的な流れからみたらどういうことを意味するのか。また、同じ合併でも僕がいる田辺市はわずか7万、小さい市は2000ほどです。そことの合併と13万から15万のまちがいっしょになるという門真市では全然違う。合併ということで1つの統一した基準がないので、まず皆さんが自分の町について考えてほしい。
最初に門真の合併の話しというのはどういうところから、どういう問題で進んでいるのか、ということについて大阪府の正井さんから説明をお願いします。
正井 昭夫氏
(大阪府市町村課課長補佐分権 ・合併グループ)
当然ながら私は府内・市町村合併を推進する立場で参加しております。そういう意味で非常に旗色が悪いのではないかと心配しておりますが...。
いま国や府が市町村合併を推進している、これはまったくその通りです。その理由としては、1つは住民の生活圏が拡大しております。従ってそれに対応する地方自治体も、より広域的に展開をすることが求められている、これは厳然たる事実だろうと思います。
さらに地方分権一括推進法等の制定もあり、地方分権が昨今非常に進んでいます。やはり市町村が住民にもっとも身近な行政体であり、その市町村がさらに力を付ける。
また今後、日本は世界中のどの国も経験しなかった超高齢化社会へ突入することが考えられます。こういう少子高齢化社会の中で対応できるきめ細かなサービスを行うことが必要になってきます。そのためにはどうすればいいのか...。こういう課題に的確に対応するため、やはり合併によって市町村が行財政基盤を強化し、こういう問題に的確な対応の力をつけていくことが非常に大きな課題であると認識しています。これは国も全く同じ立場であろうと思います。
さらにこれまで日本は戦後一貫した右肩上がりの経済成長を続けておりましたが、この時代は終わってしまいました。この右肩が上がらない経済に、企業も行政も転換がうまくいっていません。その結果、現在国地方とも非常に厳しい財政状況、800兆にのぼらんとする国、地方の財政赤字に直面しています。
この中でなお新しく出てくるさまざまな課題、住民の方々の多様なニーズに対応していくために、どうしても行政のスリム化をはかり、効率的な行政運営を行うことが必要になってくると思います。その中では行政改革を徹底的に推し進めるという方法もあるでしょう。スケールメリットと言いますか、規模のプラス面をうまく活用し、合併によって効率化を図る、という方法も1つの有効な手だてではないかと思います。ここまでは大阪府公式答弁です。
私の個人的な気持もお話をさせていただきますと、住民1人ひとりにとって自分の属している自治体が将来まで見通してどうなのか。財政状況がどうなっているのか。隣の町、隣の市、ちょっと離れた市町村と行政サービスの水準からしたら差があるのかどうか、そういうことに関心があってもなかなか真剣に考えるという機会はありません。
「合併する」ということは、当然相手方さんとの行政水準のすりあわせがいります。いざそっちの方向に向かおうと思うと、さまざまな説明会も地域で行われるだろうと思います。
そういう中で、住民1人ひとりが自分の住んでいるまちが将来どうなるのか、財政的に大丈夫なのか、どういう魅力あるまちづくりができるのか、そういうことを真剣に考えるきっかけに合併の話はなるのではないかと期待しております。
これは私見ですが、こういう中身を踏まえて、国では合併特例法という法律を改正(市町村合併支援プラン策定、財政・制度の手続き面など)して非常に充実しました。平成17年度3月末までの時限的な措置ですが、国がいいますには最大にして最後の手厚い支援策が講じられたところです。府としても市町村の合併を支援していきたいという立場で、シンポジウムも開催し、またパンフレットも作成いたしております。また、市町村や公共団体が行う合併に関する調査研究への補助なども実施しています。さらに今年7月には府独自の合併支援プランの策定も考えており、合併を進めていこうという市町村に対して具体的に応援させていただく予定です。
このような中、府内各地の動きも少しずつですが活発化しつつあります。現在、府内8地域(25市町村)で合併に関する研究会が設立されております。さらに市町村議会の動きも、合併に関連する特別委員会を門真市議会、守口市議会を含め8団体で設置され、議会の体制も少しずつ整いつつあるという状況です。
さらに新聞報道等でご存じかと思いますが、南河内の富田林市、太子町、河南町、千早赤阪村の4つの市町村では、具体的に合併するかどうか、合併したときにはどういう町をつくるのか、というのを決めていく組織(法定合併協議会)の設立に向けた準備作業が始まっています。4月9日に府はこの地域を府内で初めて「合併重点支援地域」に指定させていただいたところです。
じゃ門真市はどうか...、実は両市の3月市議会で門真市長さんとお隣の守口市長さんが「合併するならここです」とお互いの市を名指しして、合併相手として具体的な検討に入るという表明をして下さいました。
両市は地理的にはもちろんですが、歴史・文化、そして社会経済の面でも共通点があり、たとえば介護保険の「くすのき広域連合」をはじめ、行政の連携の実績も非常に高いと聞いています。府も両市の動きをたいへん注目し、期待の目をもって見させていただいています。
さきほどコーディネーターの政井さんが広報紙等にあまり合併問題を書かれていないということですが、昨年末から市の広報で7回連続して合併特集を組んでおられます。府のほうに報告がきているだけでも、広報活動を一定なさっているというふうに聞いています。
コーディネーター/政井氏
広報活動の件は、私は見ておりませんので府庁の正井さんのほうが正しいと思います。
いまの正井さんのお話では、公式見解として合併の理由の1つ目として人々の生活圏が拡大、2つ目が高齢化社会となりいろいろ難しい問題の受け皿として市役所の能力向上のため、3つ目として財政赤字ですね。また正井さん個人的として、これを機会にいい町をつくるきっかけにしたい、というお話でした。
府は7月から力を入れていくと、国も6月からもう一歩推し進めるということが新聞報道されていますので、これから一層本格化するということです。次に重森先生、お願いします。
重森 曉氏
(大阪経済大学教授
・門真市職労まちづくり研究会座長)
それではまず全国的な状況からふれてみたいと思います。いまお話にありましたように1999年7月に合併特例法が改正され、自主的な合併の推進に向けたいろんな制度が拡充されました。
2000年12月、政府が閣議決定した行政改革大綱の中に、「与党の連絡協議会が全国の市町村数を1000程度にするという確認を考慮しながら今後合併を進めていく」ということが謳われたわけです。それ以降、いろいろな形で全国的に合併の動きが進んできています。
最近、総務省が発表した数字によれば、2002年4月現在、2,226の自治体で検討され、そのうち法定の合併協議会、ないしは任意の合併協議会がつくられたところが668市町村(167地域)あり、それ以外に研究会、検討会、連絡会などの形で合併について検討している市町村が1,558(350地域)あり、全国の自治体の2,226(約7割)で合併が検討されています。
門真・守口の場合には両市長さんが「合併するならここだ」ということで、それぞれの市に合併推進室のようなものが設けられていますが、まだ両市の合併のための検討会などは設けられていない。そういう点では門真・守口の場合には両市長さんが宣言はしましたが、合併に向けての動きが前に進むのかどうか、私は微妙なところにあるのではないかというふうに思います。
国は総務省を中心に合併に向けていろいろ動いていますが、いまの合併のタイプは大きく分けて3つぐらいあると思います。1つは和歌山県の田辺市など10市町村のような農山村型です。人口が1万・2万とか、そういう小規模の自治体を合併していく。3,200余りある市町村を1,000程度にするということになりますと、人口が2万人以下の日本の市町村が2,230程度あります。農山村地域の人口が2万人以下の小規模な自治体を合併して数万程度にしていくというのが1つのタイプで、今の合併運動の一番の中心はここにあると思います。
もう1つ、対極に大都市圏の合併ということで、政令指定都市めざした静岡と清水市の合併が典型的です。他にも新潟市、大阪では堺市が政令指定都市をめざし高石市との合併協議がかなり進んでいるという状況だと思います。
この両極の農山村型と政令指定都市型の合併の動きのなかに、中間的に中核市30万、特例市20万というような30万〜20万程度の中間型をつくりたいという動きがあるわけです。門真が13万5千人、守口が15万人程度で合わせて28万〜29万ということで、門真・守口の場合にはこの中間型になるのではないかと思います。ある意味で、いまの日本の全体合併の動きの中では実に中間的というか、中途半端というか、そういう合併ではないかと思います。
一般にいろんなシミュレーションで、行政の効率化、行財政基盤の強化という話がありましたが、1人あたりの人件費・歳出をできるだけ少なくするという意味で考えますと、大体人口が20万人程度が指標として最低規模ということになります。門真・守口の場合には、13万、15万で今の程度でも別にかまわない。たとえば30万近くになったらうんと効率的になるかというと、20万を超えていきますと支出が緩やかに増えていくという傾向もあります。その点ではどちらとも言えない、という状況ではないかと思います。
お配りしました財政指標からみますと門真、守口はたいへんよく似ています。人口1人あたりの住民税と人口1人あたりの法人住民税を比較しますと、門真、守口は人口1人あたり住民税は大阪府下衛星都市の中でも最下位のランクにあります。ただ、1人あたりの法人住民税をみますと大阪府下で2位と3位ということで、産業都市という性格を強く持っています。
その他のいろんな指標をみましても非常に似通った都市ということがいえます。そういうことからか、昭和の初め以来、守口と門真は何回となく合併についての動きがございました。
1931(昭和6)年に始まりまして、昭和14年、15年、17年、21年、23年、29年、32年と細かく分かていきますと過去9回ぐらい合併をめぐっての動きがありました。1948(昭和23)年に門真・守口議会で決議がされましたが、住民投票が行われて否決をされる。これを先人の偉大な功績かどうかは別にして、そういう動きがあったことは事実です。
'54年のときも門真町議会で議決をしましたが、町内で対立があり合併不参加となりました。'57年のときも守口、庭窪町、門真町の合併勧告が知事から行われましたが、門真町の8割が反対ということで、守口と庭窪町のみの合併になるということで、1963(昭和38)年に門真市が誕生しました。1966(昭和41)年にも守口、門真、大東、四条畷の合併問題がおこっています。
ということで昭和の初めからずっと守口市と門真市というのはいろんな形で合併問題が起こってきました。大きな傾向として、守口市のほうが財政が非常に苦しくて、門真市のほうは松下電器の関係とか、そういう法人税関係の収入が多い。そのへんが1つの背景となっています。
一方で守口市は大阪市への編入をにらみながら、他方では門真といっしょになりたいというけれども、門真が絶えず「いやだ」といって断るという、こういうふうな歴史があると思います。
江戸末期から門真という名前はあったわけですし、門真の人たちの独自の自治意識、そういうものが非常に強くあります。税収を活用して自分たちでまちづくりをしていこう、ということがあったのではないかと思います。
合併するときに非常に似通っているから、いろいろと行政も連携の経験もあるから、というだけで「合併」ではなくて、やはりどのような町をつくっていくのか。まずこれをしっかり市民参加で論議をし、こういう町をつくるためには合併するほうがいいんじゃないか、という選択もそれはいいでしょう。ただ、よく似ているし、昔からいっしょになろうといってきた、だから「合併」しましょう、というだけではいかがなものか?と思います。
コーディネーター/政井氏
重森先生は3月に両市長が相手として名前をあげたけど、まだ庁内の検討会もないからどう動くかまったく分からないといわれましたが、来年の春に合併したいといわれたという報道がありますね、相当落差もありますが、検討もせずに合併はできないでしょうから、そのへんは重森先生はどうみておられますか?
重森氏
市民レベルにまだ十分情報が伝わってないし、各市役所の中でも準備体制が必ずしも整っているわけではない。また、両方の連絡会も進んでいるというふうには聞いていません。来年春というのは個人的な感想では「いけるのかなぁ」という気がしますが。
コーディネーター/政井氏
東北の大船渡市というところの合併を朝日新聞が連載していますが、最速の合併で2年と書いてありました。もし1年だったら超最速ですね、ビックニュースになるでしょうね。
これだけ大きな町だったら事実上無理だと思いますが、時期でいえば合併特例法の期限というのが非常に大事ですね。色々な恩典がある時期に合併する方が、やるということになればいいでしょう。
正井氏
平成17年3月末で合併特例法の期限が切れます。
コーディネーター/政井氏
さっき府庁の正井さんは広域化し受け皿能力がいる時代になった、財政赤字がたいへん、そういう大きな観点でまず合併をみるという、もうちょっと地元の話を深めていただくために、そういう視点で分析することだけでいいのかどうか、重森先生の立場からはいかがですか。
重森氏
最初に言われた3つの理由ですが、総務省の説明では「地方分権化を推進するため」、「多様化・高度化する行政課題に対応するため」、そして「財政危機を克服するため」、という3つの理由で合併が必要だという論理は、ある意味では人口が数千人規模の農山村地域の自治体にはあてはまるところがあるかもしれません。ただ、私は必ずしもそうは思いませんが...。
たとえば地方分権化をすすめていくため、より強力な行財政基盤を確立する必要がある、というような観点からみても、私は守口や門真が地方分権の受け皿として進んでいくような力をもたないか、というと決してそうではないと思います。十分な行政能力、自治能力を備えているというふうに思います。
非常に高齢化社会が進んでいく中、多様化、高度化するサービスとして、環境(ごみ処理)問題、情報の問題、高齢者福祉の問題などがあがっているわけです。たとえばごみ処理の問題にしても、情報化の問題にしても、高齢化社会の問題にしても、門真、守口でそれぞれ十分対応できると思います。
「くすのき広域連合」の評価、これはもう少しきっちりと調査をしなければいけません。
財政危機の問題でいえば、門真・守口の両市のいまの財政状況の問題ですが、地方債と積立金の状況を見ますと、地方債残高が門真の場合には392億円、守口市の場合には501億円、それに債務負担行為等がありますのでそれを足します。一方、積立金残高が門真のほうがやや多く、守口は積立金が少ない。また、今後長期に払っていかなければならない借金と、それから積立金を引いた将来の財政負担というのは門真が391億円、守口が568億円です。守口のほうが門真より1.46倍ぐらいの負担をかかえています。
他方、税収のほうをみますと「門真のほうが豊かで、守口が貧乏か」というと必ずしもそういうことではありません。
税収の変化では地方税のこの10年間の変化を見ますと、門真が7%ぐらいマイナス、守口は5%ぐらいプラスになっています。この差は法人税割ということで、門真の場合には63%の減少という非常に大きな落ち込みになっています。守口の場合には32.8%で3分の1ぐらい減っただけということになります。
これは明らかに、われわれのまちづくり研究会で分析した結果によれば、松下と関連5社の税収が減っている、ということです。松下自身の経営状況も悪いということもありますし、国内の他の地域が海外へ工場を移していっているという問題もあります。そういう点では、門真の税収という点からみれば、決して楽観できる状況ではありません。そういう意味で、中小零細企業を含めたこの地域の産業基盤を強めていくということが必要だと思います。
ですから、それは決して合併したから問題が解決するという問題ではない。ましてや合併特例債によって借金で大規模な公共事業を進めていくというようなことをやりますと、ますます財政危機を促進してしまうことになりかねない。
私は財政危機を克服するためにいま合併するというのは必ずしもそれは効果的なものではなく、むしろそれよりはこの地域の地域経済の振興、まちづくりをどういうふうに進めていくのかということを真剣にお互いに考えたほうがいいのではないかと思います。
コーディネーター/政井氏
府庁の正井さんがいわれた3つの基準に照らして門真の場合、必ずしも合併がその答えにならないのではないか、中小の町にはあてはまるかもしれないけど、ということをいわれました。せっかくのチャンスで魅力ある町づくりにしようではないかという、今の先生のお話を含めてお考えを聞かせていただきたい。
正井氏
事実関係だけは整理しておく必要があると思います。3月議会で「平成15年4月が一定の目途である」ということをおっしゃったのは、私が聞いている限り守口市長さんで、門真市長さんは「早急に」とおっしゃったというふうに認識しています。
守口・門真という枠組みの現段階で府が知っている中身は、まだ両市の勉強会、研究会もまだ設定されいない。当然、中では連絡をとりあっているのでしょうが、市の内部でさまざまな調査、研究、検討されているという段階です。
ちょっと誤解があるといけないので強調しておくと、今回の市町村合併推進について、国や府の基本スタンスは「市町村合併を応援する」ということで、合併をするのかしないのか、単独でいくのかどうか、どこと合併されるのかという枠組み、いつ合併されるのか等々については、これは地域でお決めいただく。
その決めていただいた取り組みについて支援させていただくということです。そういう意味で、次の段階として両市が勉強会、あるいは両市にどこかが加わるかもしれません。ただ、そういう形で始まったならばそこで応援をさせていただくということです。この2つのスキームについて議論するのはここでは控えさせていただきたい。私はまだそういうことを議論するまだ一歩手前ではないかと思います。
ただ、さきほど私が申しました生活圏の拡大等について、これは7千人〜8千人の農村部の議論である、というのはやや事柄を性急に処理し過ぎているところがあるのではないかと思います。ここは大都市圏近郊ですから、そこにはそこ独自の問題があると思います。
市町村合併問題を議論するときに非常に難しいのは、非常に全国的に汎用性のある総論というのはあるのですが、そのつぎに類型化というのはかなり難しいと思います。合併の枠組み、ここであれば、いまの方向では両市長さんがおっしゃっているのは守口、門真ということですが、守口、門真ではどうなのかということを具体的にみていかないといけない。
それで重森先生は研究会で資料を整理されていますが、これを私の目からみさせていただいた正直な感想としまして、失礼ながらこれは静的比較で、ある年度を切ってそこの数字をつき合わせているだけ、という気がして仕方がない。今の材料から仕方がないのかも分かりませんが、非常に単純な比較になってしまうのでは?と心配しています。やはり、問題は実際の事業の中身、どういう事業が行われているのか、スタンダードからして課題はどこが足りないのか、ということを具体的に議論しないといけないと思います。
従ってまさに地域特性であり、分権の時代における市町村合併というのはその地域でお決めいただく。こういう形でやりなさいというようなことを国や府が押しつけるというのはできないし、やっていけないというのはまさにそこだと思います。もし次の段階として勉強してみようとなったならば、重森先生たちも、組合の方も、今度は守口市の組合さんと組んで数字をつき合わせてみるとか、もう少し具体に合併したときに、どういう課題があって、それは合併することによってどういうメリットが働くのかということを具体的にみていかないといけないと思います。組織にしてもどんな組織があるのか、守口市にあって門真市にはない、課題に対応するためにというのはいま現在だけではなく、これから先、市町村にさまざまな事業の移譲が一層進むと思います。今年から精神保健福祉についての事務が市町村におりてきましたが、障害者福祉についても支援費制度という新しい介護保険に似た制度になります。そういう権限もいくつかおりてくるなかで、どう専門職を確保していくのか、というのはいま表だけみて、門真市は力をもっている、人口もかなりある、守口もそうだ、だからやれるんだという、単純な結論にもっていくのはちょっと危険かなぁ。府のほうが望む方向で次の段階への議論をしていただけるならば、今度は両市のデータをつきあわせて、具体的にどういうことができて、どういうことができないのか。たとえば、守口市にはどういう公共施設があるのか、門真市にはどういう公共施設があるのか。これは具体的につき合わせないといけないと思う。それによって一本化できるのかどうなのか。町づくりを行うときの一体性はどうなのか。
きょう、私は守口市のほうからグルッと回って門真市に来ました。歩いていますと守口市と門真市というのは町としては実に一体化してて、気がついたら守口市から門真市に入っていた。これが昔から合併の話が出たり消えたりする所以なのかと思ったのです。
もう1点は、過去の「明治の大合併」、「昭和の大合併」、「平成の大合併」というのを並べて話をするのは私はどうかと思っています。「明治の大合併」というのは、明治維新の政府が近代化を強行するために、強行的に行ったものです。「昭和の大合併」も国や都道府県が合併計画をつくり、割り当て合併させていくという上からの押しつけがあったわけです。
今回はそういうことはまったくありません。国や府は「こういう合併をせい」ということを一言も言っていない。ですから3つ並べて、「これまでも反対してきたから次も反対する」ということにはならない。もう少し、合併特例法の中身をみていただいて、これが果たしてアメになっているのか、じっくりみていただいた上で判断していただきたいと思います。
重森氏
相当批判があったので簡単に答えておきたいと思います。まず生活圏の広域化について、農山村地域とこういう大都市では違うというお話がありました。前回、大阪府の担当の方と議論をしましたが、生活圏の広域化は確かに車で遠くまで買い物に行けるとか、通勤圏もかなり広がった、ということがあると思います。ただそれはどういうような人を想定して生活圏が広域化したのか。小さな保育園に通う子どもたち、体が不自由な方、高齢の方、そういう人にとっては決して生活圏は広域化しているわけではありません。やはり身近に通えるところが生活圏なわけで、そういう人たちのことを考えて自治体行政をやっていく場合、単純に生活圏の広域化のため大きな自治体をつくればいいということではありません。またこの点は農山村地域でも門真市のような大都市でも同じではないかと思います。
私の財政分析の資料は確かに単純なもので、時系列的な変化などを示さなければいけません。ただ公共施設、行政水準がどうかというのは、きょうお配りした資料で福祉、教育、医療、住宅、公共施設、上下水道の問題、産業の実態、産業行政などについて詳しく分析しております。われわれの研究会は、こういう違いがあるということをまず確認し、その上で合併が必要なのかどうかを慎重に検討していこうと考えています。今後、ぜひ市民の皆さんにもこういう資料を参考にしながら検討してただきたい。
さきほど総論的に私は「いまの規模でも十分やっていけるのではないか」というふうにいいました。もちろんそれは総論であり、各論的には行政のレベル等について検討していく必要があると思います。
この地理的な状況というのは、大阪府下では高度成長期に都市化がどんどん進み、どの都市も大体どこからが何市でどこから何町か分からない状況です。もし「境界がない」ということであれば、大阪府はほとんど全部合併しなければならない。それはいかがなものか、と思います。
「明治の大合併」、「昭和の大合併」と今回は違うといわれましたが、私は合併には国家行政機構の再編という側面と、地方自治の発展という側面があると思います。「明治の大合併」も「昭和の大合併」も、結論的には国家行政の機構の再編であり、地方自治の発展というか、そういうものをめざした合併ではなかった。その歴史をみておりますと、その手法とか、その中身をみてますと非常に酷似している。とくに「昭和の大合併」と今回の「平成の大合併」は補助金や合併推進本部のつくり方がそっくりです。大阪府さんはわりと理解があって「自主的合併」ということですが、しかし、全国的に状況を見ますと「昭和の大合併」に酷似しています。その本質は「明治の大合併」とかなり近い、というふうに学問研究的にもいえるのではないかと思います。敢えてこの点だけは一言反論をさせていただきます。
コーディネーター/政井氏
エキサイトしましておもしろくなってきましたが、こういう議論をもっともっとやるべきだと思います。
比較データの話ですが、重森さんのつくったデータは外部の方ですから限界がありますね。市長命令で職員が本気でやればもっと立派なものができる。そういうものに基づいて議論をしろ、と正井さんがいうのは当然です。しかし、その資料はないので先につくっているわけで、その人は批判しても仕方がない。自治体がそれをつくって、大いに市民にそのデータを提供する。そこから議論を始める、そういう意味でお二人の意見はぼくは違わないと思います。
過去の合併をどうみるか、これは本当におもしろいお話で、正反対の意見が出ました。これはぜひ皆さん、いろんなところでお聞きになるわけですが、自分の頭で考えていただきたいと思います。
今まで議論をお聞きになって、遠い山口県から来られた下松市職員労組の委員長さんです。ご自分の市はかなり特異な経過をたどっておりますので、そのことを簡単に説明していただいて、自分たちの経験からどういうことを思うかということをお話し願えればと思います。
小林 樹代史氏
(山口県下松市職員労働組合執行委員長)
いまお二人のお話では、ちょっと入りにくいなぁ?という気がしていたのです。せっかく山口からきましたので、私の体験を含めてお話をさせていただきたいと思います。
下松といいますのは山口県の瀬戸内海に面しております5万5千の町です。当初、3市2町の合併が進もうとしておりました。ところが下松市は昨年の12月26日法定合併協議会から実質上離脱をいたしました。そういう経験を踏まえて少しお話をさせていただきます。
さきほど府の正井さんが「押しつけではまったくない」といわれましたが、これは受ける市町村はまったく違うのです。もちろん、大阪府と山口県では違うのかもしれません。おそらく大阪府下の市町村も「押しつけではない」というふうに感じているところはほとんどないと思います。
アメとムチというのはおかしいのではないかといわれました。特例債というのは合併後10年間かなりの額を借金することができる、しかもその償還にあたっては地方交付税の算定に入れられる。要するに国が補助をする。交付税の補助金化と私たちは思っているのですが、そういうシステムです。
これが果たしてどうなのか。この特例債というのは、1992年、バブル崩壊後の総合経済対策と酷似している、というふうに私は思っています。当時、起債額をどんどん増やし、地方も公共投資をしていく。バブルがはじけたあと公共投資をすることが不況を脱却する手だて、ということで容認されていましたが、しかし、これは失敗したというふうに思います。
その結果、各地方自治体が大きな借金をかかえて財政危機を迎えた。そこで呼応するかのように「市町村合併で財政危機を打開しなさい、財政基盤を強化しなさい」というふうに国が言ってきた。ところがまた「借金をしなさい」と言ってきていて、これは明らかに過ちをもう一度繰り返そうとしている。
おそらく国や府・県の方は、「特例債を使うか使わないかはその自治体の判断による」、ということをいわれるでしょう。しかし、実際には目の前にある国からの補助につい手を出したくなる。山口県の3市2町でも特例債をとるために合併をするんだ、というような空気があります。正井さんとこの話をしましたが、「そうですか?そのつもりはないのですが...」と首を傾げられる向きもあったのですが、実際に市町村のレベルではそういうものがあります。とくにこれから門真と守口が合併論議をされるうえで、特例債めあてに合併をすることだけは避けてもらいたいと考えています。
合併というのはあくまで"町づくり"のための選択肢の1つである、という位置づけをもつことが一番大事ではないかと私は思います。その中でもし"町づくり"のために合併という選択肢を選ばれるのであれば、そのときに将来に禍根を残すかもしれない、そういう特例債に手を出さずに、しっかりと住民自らが論議し積み上げた町づくりのために地道にやっていっていただきたいということを申し上げます。
コーディネーター/政井氏
新聞報道をみますと3年前に法定合併協議会ということで、全国的にもできた早いところですが、そこから1つの市だけが抜け出た。法定協というのは「5つ合併する」と決めたということで法律的に束縛がありますから、そこから出るのはほとんど例がない。お聞きしたいのは、市長のとった行動の理由と、それに対して議会と市職労はどう考えているのか、一体性はどうなっていますか?
小林氏
法定合併協議会ができたとき、3市の市長はすべて合併推進の立場でした。その後、3市とも市長が代わりましたが、下松市の市長はとくに合併に対して慎重な姿勢をとり、そして当選いたしました。
法定合併協議会ができたときに下松市職労としては「国の押しつけだ」ということで、一定反対の市民団体をつくり、全戸ビラ配布、自治会長アンケート、議員へのアンケートなどを繰り返しやっています。そういう中で合併論議がだんだん深まり、そして市長選で合併に慎重な候補が当選いたしました。そして、法定合併協議会の中で、市職労や市民団体が指摘していた財政問題やまちづくりの根本的な問題について少しずつ論議がされるようになってきた。
私たちが指摘した大きな問題として、他市の土地開発公社の隠し赤字と、そして協定上の問題です。この2つの財政的な問題を合併するにしてもきちっと整理しておくべきだろうというのが市民の会の主張でして、市長もそれを議題にあげようとしました。ところが他の二市は「これは議題にあげるべき問題ではない、一般会計だけ整理すればいいじゃないか」ということで拒否した。それに下松市長は「隠して合併してもいいことにはならない」と反発し結果的に離脱しました。
合併に慎重な市長というのは議会の最大会派のボスで、3年前までは合併推進の市長と非常に仲がよかったのです。ところが合併の内実、他市の財政状況等が明らかになってくると合併に関する考え方で2人に大きな溝ができていった。そこで市長選がたたかわれた。
市民の会、市職労と市長のかかわりは直接ないのですが、間接的にそれを明らかにすることによって、そういう慎重な候補が表れたという道筋です。
コーディネーター/政井氏
5市町で法定合併協議会が崩れましたね、そうすると法律上なかったことになる。それを新聞報道では、「なかったことにせず、5市町の合併協議会を形の上で残しておいて2市2町の新しい法定合併協議会をつくる。まず4つだけで先行合併し、また下松いらっしゃい§箱をおいてありますから」という非常に変わった例のない形で進んでいるということでいいですね。
小林氏
その通りです。
コーディネーター/政井氏
きょうは関経連の企画調査部長さんにも来ていただいたます。関経連の方が市職労のシンポジウムに来られている、ということできっと皆さんびっくりされるでしょう。栗山さんはジャーナリストともいっしょに地方分権の勉強をされています、われわれの仲間です。
関経連は、財界の中で日本で一番最初に地方自治の問題に関心をもたれて...、それも合併問題だったのです。かつて道州制が打ち出され、これは県をできるだけ薄くしてもっと大きなものでつなごうと。
最初の案が、近畿州というのができたらその州長は国の役人を呼んでこよう、そういうようなお話でみんな一斉に反発をした。その後、州長さんも選挙で選ぼう、州議会も選挙で選ぼう、とどんどん変わってきました。自治論的には反動でもないのですが、道州制議論はほとんど言われなくなりました。ただそれだけではなくて、市町村合併について欧州に二度調査団を出されています。新聞報道によれば、98年頃は「自治体が合併しなければ住民が動いてしっかり合併させよう」という報告でした。ところが2000年12月頃フランスへ行った調査団は「無理して合併するんじゃなしに、広域行政もテーマごとにやったらいいじゃないか」という報告になったのです。ぼくはもうびっくりしました。そのときに取材に応じて下さったのは栗山さんです。
きょうのご議論を聞いておられて栗山さんはどのように思われたか、できればお話を願えますか
栗山氏(関西経済連合会理事・企画調査部長)
まず市町村合併について私はどんどん進めるべきだという推進派でもないし、いまの動きが国からの押しつけであるからなんとしても反対という立場でもない。是々非々といいますか、合併にもよい合併と悪い合併があって、よい合併をしていけばいい。もちろん決めるのは「地域市民であり」というのは当然ではないかと、私は個人的にそう考えています。
総務省(旧自治省)、都道府県が「できるだけ合併しやすいような環境につとめてもらっている」ということでしょうが、受け取る側からすれば「押しつけられている」という、そういう側面があるのは事実だと思うのです。
また、市町村は3000有余を1000に、あるいは300にする、ということを主張しておられる方がおられるのは事実です。「合併ありき」論的な主張も確かにあります。
経済界もその1つのようにみられている面がありますが、経済界も決して一枚岩ではありません。
とくに東京にある経済団体や、東京に本社がある大企業と、地域で活動している団体・企業では、合併の問題というよりも地方分権の問題についての考え方が相当違うと思います。やはり関経連というのは関西に基盤を置く経済団体として、戦後まもなく「昭和の大合併」というのがあり、ずっと地方自治のあり方を検討してきました。
昔、都道府県の知事は国が任命(官選)していたわけですが、それが戦後選挙で選ぶようなシステムになった。それを逆行させ、「道州の知事は国が任命すればいいじゃないか」という話が昭和20年代に出ております。また高度成長期(昭和40年代)にも少し軌道修正した民選による首長・議会を置いた都道府県ではなくもう少し広い大阪でいえば近畿というような広がりの道州制を提案をしております。
ただ'90年代の関経連の考え方としては、道州制や市町村のあり方というのは受け皿論といわれる分野であります。
いま経済も社会も変わってきている中で、いま日本が直さないといけないのは中央集権体制であり、それを裏返した地方分権をどうすすめるか、ということです。確かに地方分権の担い手である地方自治体をどうするか、という問題は重要です。
そこでわれわれが強く反発しているのは、いまの市町村・府県では受け皿がダメだ、それが変わらなければ国からの権限は少し変化を見せているが、財源を渡さない。
とくに財務省などは「国がいったん徴収した税は自分のところのものだ。全国、各自治体がうまくやれるように交付税や補助金を出し、基盤整備、住民サービスをできるようにしてやっているんだ」という考えがあります。そういう中央集権的体制をまず変えるべきで、順序が違うという主張を'90年代はじめ頃からやりはじめました。
いま地方分権が少し進み、第一次地方分権改革が終わったといわれています。そのきっかけになった地方分権推進法で、地方分権推進委員会ができ、5年が1年延長され6年にわたって議論されたのです。そのときにも「いまの市町村では、府県では...」という議論があったのですが、それはやめた。まず国と地方の権限を変えようということで受け皿論は棚上げにして機関委任事務制度の廃止が実現したわけです。
第二次の分権改革としては財政です。いまの国が国税と地方税の中で、国税が6割〜7割とって、しかし、国民に対して行われているサービスというのは自治体が6割〜7割実施している。
その間は国税とか、補助金で国から自治体に移転されるわけですが、第二次分権改革の最大のテーマはその仕組みを変えなければダメだということを主張しています。
その段階で、いま市町村大合併論が出てきて、その先には市町村が変われば府県も変わるべき、そこは私もそう思うのですが、ただそちら(合併)が先だということについては譲って同時に...。
財政を中心にした中央集権的体制がどう変わるかということを先に示してほしい。その上で自治体、市町村、府県は私はそういう権限・財源を与えられれば、たぶん地域づくりはやっていけるし、やっていかざるを得なくなる。そのときにある地域づくりの大きな目的があって、その手段の1つに合併というのも当然入ってくるだろう。合併ありきでもないし、合併反対ありきでもおかしいという立場であります。
フランスに調査団を出したというご紹介をしていただいたのですが、合併の話で調べに行ったのではなくて、あくまでも地方分権の大きな制度がどうなっているのか、ということを2回にわたって調べに行きました。
フランスの市町村というのは4万ぐらいあって、あそこも中央集権国家といわれてましたから、ある時期、大合併をすすめようとしたのですが、見事失敗をした。ただ、日本の市町村とちょっとイメージが違って、教会を単位にしたような集落で(パリなどは別として)、だからよけい地縁が重要で合併が失敗した。
しかし、行政サービスは小さい単位では難しいことは厳然としてあり、それを解決する手段としてフランスのほうでは、合併という形ではなく、行政サービスをいっしょにやりましょうということで、日本流にいうと広域連合のような形です。日本でもそういう広域行政の仕組みがあるのですが、日本の場合はどうしても財源がついてこない。
フランスの自治体連合の最大の特色は「広域行政体に課税権を移譲する」という仕組みがうまく動いてて、あちらの方は「欧州統合という中でフランスの生き残りとして地方分権を大いに進め、市町村レベルでの自治はこうしている」という説明を自信をもってされた。
帰ってきた報告書で、調査団報告としては「合併必要ない」とは決して言っていません。合併も地域の選択としてあるし、しかし、国に対して要望したことは合併しかないというような制度づくりにしない。合併したらこんなアメを、しなかったらムチを、というのではなくて、別の選択をしても同じように支援をしていただく。多様な選択肢を用意してほしい。
地域は類型化すら難しい、1つ1つ判断しなければいけない、という実態でしょうから、そのときにできるだけ多様な選択肢があったほうが、その地域にあった自治体がつくれるのではないかという、そういう報告書を出しました。
コーディネーター/政井氏
いまおっしゃられた地方分権をめぐる経過は正確で、非常に客観的に言われたと思います。
分権の議論が始まったときに、自治体は能力ないから、まず合併という議論してからと。ただ分権というのは国がもっている権限とお金を地方自治体にもってくるお話で、そのときにこちらが能力ないからということでは。まぁ一応能力をあることにしようということで受け皿論を横に置いた。ところが分権委員会ではなしに別の中から「合併せい」ということが出てきて、それが一番大きな流れになってきた。
従って分権の社会になった筈なんだけど、きちっと制度化しないうちに各自治体が「分権だ」、「自分たちで自立的にできるんだ」と本気で思って、仕事する前に、まず合併という話しになった。
朝日にいたとき論説でそれを書いていた人間からいえば、「分権の話が定着せんうちにもう合併かい」と、これが正直な話です。
つい最近、片山総務大臣がNHKの特集で、「国税をできるだけ地方税に移すのだ」といっていましたし、きょうの各新聞にも出ています。5.5兆円を所得税と消費税から地方の住民税にかえる。住民にとってはどっち払うか同じ税金ですが、行き先が地方にいくという案を発表してます。これは非常に注目すべきニュースで、国の大臣が初めてそういうことを正式に言ったわけです。当然、財務省は反対しますね。
5.5兆円も国から地方にいったら国はたいへんだというので、「国庫負担金(補助金)で出していた5.5兆円分はやらないようにする」と書いてあります。地方は実質的に使えるお金は増えるけども、ひも付きの補助金は減るという案です。
片山総務大臣は「これから地方に自主財源を増やすから、へんなことに使ったら困る、そうなれば自治体はしっかりしなければならない。それには大きな自治体でないと勉強したり体制が整えられない」というふうにNHKで言ったわけです。
「財源を新たにあげますから、しっかりした自治体になるには合併しなさい」と言ったわけですが、そのときに、「まだカネもくれないうちに先にしっかりしろとはなんだ」、とぼくは思った。ところが片山総務大臣は凄腕ですね、即刻、言っています。あの人は二枚舌ではない。ただし、それは実現しないでしょう。それははっきりしているのです。前にもそういう問答がありまして、「国の経済が回復すれば考えましょう」とたしか橋本総理大臣のときに言っています。国の経済が回復する見込みは当分ない。多分、できないでしょう。しかし、そういう考えで総務大臣が言っていることは事実です。そのときにどうみるか、という問題があります。
いま栗山さんが言われたのは、「財政や権限をまずくれてから、少なくともいっしょにやろうではないか」。新聞記者としてはまったくぼくも同感です。そこで大阪府の正井さんは反論あるでしょうからどうぞ。
正井氏
アメとムチの議論でありますが、押しつけについては感じ方の違いがあるので、ここで議論をしても仕方がないのかもわかりません。税財源の移譲についてはおっしゃる通りで、地方分権一括法ができたとき「第一次の分権改革だ、必ず第二次がある」ということで、税財源の移譲がまだいってなかった。それがいよいよ、大臣の発言に留まりますが、動き始めたのかなぁー。
たしかに理論上整理されますと、さきに分権があって、それから行財政基盤を強めるための合併という選択肢を選ぶかどうか、理論的はきれいなのですが、現実の行政の世界、政治の世界というのはなかなか理論的にいかなくて、逆転現象があったり、渾然一体となったりしています。
一方で、われわれは特例法の期限切れまでにどうするか、という問題に直面している。もう1つは国家財政、地方財政ともに非常に厳しい。日本経済自身がこれから右肩あがりの成長というのは非常に難しいだろう、という議論の中で、地方も、中央も、大きな政府でいるということはもう無理だと思う。そうするとスリム化という議論になり、いずれ税財源の移譲があろうがなかろうが、行政面の効率化というのはなんらかの形ではかっていかなければいけない。その認識は皆さん一致すると思います。その中の1つの方法として、合併という方法を国が示して、そこへ行きやすいように環境整備をしてくれている。それを選ぶのかどうかという判断を今しないといけない事態になっているのではないかというのが私の認識です。
片山大臣というのは世間で評判が悪いと言いますか、各市町村の首長さんと議会の議長さんに信書をだされたのです。ちょうど私がいまの仕事に移った直後で、そのペーパーをみせていただきましたが、強圧的であるとか、押しつけであるというイメージではなく、逆のイメージをもちました。片山大臣が市町村長と市町村議会の議長さんに「どうか合併について真剣に考えて下さい」ということをお願いしているのです。
重森先生に怒られるかもしれませんが、「昭和の大合併」であれば、これは間違いなく各府県の総務部長が東京に呼び集められて、「都道府県でこういうことをやれ」と指示され、帰ってきて総務部長は市町村課長に指示、関係の市町村の部長さんを大阪府にお集まりいただいて、「自治省から都道府県へこういう指示があったのでやってください。」という話をするところが、お願いの信書を出された、というのは時代の変化と思います。
これは分権時代だからこそで、そういう形で1つ1つ変化をみていただき、この変化を確かなモノにしていくという時期ではないかと思います。そこを「昭和の大合併」と極めて酷似しているというところに力点をおかれるのか、変化のほうに力点をおかれるのか、アメとムチと考えられるのか。国と地方の財政状況が悪化しているというのはこれは日本の国が成熟してきた結果で、こうならざるを得ない当為の条件であります。合併という選択肢を選びやすいように国が環境整備し、そこに府が支援しているとご覧いただくのか。われわれのほうとしては後者の立場で、ぜひとも変化を読みとっていただきたいと思います。
これから先、都道府県も市町村もいよいよ財政状況が厳しくなります。そこに合併という一つの方法があり、そこにはいくつかの有為な条件がついているというのが正直なところだと思います。それを現場で押しつけと感じられるのであれば、それはわれわれの物言いももう少し考えなければいけないのかもしれません。私どものスタッフは、いまこのようなシンポジウム、勉強会、研修会などに講師で行かせていただいています。その中で、逆に「国や府は強制力をもって市町村に合併を指導せよ」という発言もかなりあります。私どもは「分権時代の合併推進というのは地域が自主的・主体的に決めることなんだ」というその原則をきっちりと守っていくことが必要だと思っています。
コーディネーター/政井氏
正井さんはこの任務は春からですか?
正井氏
この4月からです。
コーディネーター/政井氏
正井さんにお願いしますが、これからいろんなところでお話をするとき、ただ府の説明をするだけではなくて、市町村の受け止め方にぜひ耳を傾けていただきたいと思います。一編の文章をどう読むか、まったく正反対に読むわけです。
新聞記者というのは、言われたほうの気持を中心にモノを考えます。それが世の中だと私は思っています。いまの正井さんの意見も時間が経つに変化するであろうというのが私の勝手な観測ですが...。
栗山氏
正井さんのお話を聞いていて§いまお進めいただいているだけではなくて、俗にアメとムチで言われるいろんな仕組みが用意されている。そういう中で、仮に合併を進めるというときに、これを言うとまた総務省に怒られるかも...、アメをなめないで、ムチでたたかれても耐えて、自分たちでいい選択をする。
アメというのがさきほど小林さんから言われたように、特例債とか交付税であり、これに食いつくと将来に禍根を残す、というのは私もその通りと思う。だから、そういうのを利用せずに仮に門真、守口が将来、自前で、さきほど重森先生から税収の話しがありましたが、松下、三洋などというこんなに恵まれた税収の市はないと思う。地域の経済が発展をし、そこから税収が地域に落ちていく。それが基本であって、国からの財政的支援に頼ってては。それをアメと思って合併するというのは、次の世代の住民が非常に迷惑を受けるのではないかと思います。
経済団体に勤めてて、結果的に「市職労といっしょの意見言っててええんか?」といわれるけども、これだけはきょう言わなあかんと思って来た一つです。
いまの動きが突きつめていくと、経済がダメになり、国も地方も財政が破綻しかけているという中で変わらないといかん、ということはその通りです。ただ変わる中身が本質的に変わるように、経済も本質的によくなるように。
小手先の財政的景気対策では、少しよくなっても長続きしないというのは実証されていくのではないか。そういう意味では関経連という経済団体として、関西という地域の経済・産業をどうして活性化するか、競争力をもった産業をこの地域に根づかせるか。
いま「二重の空洞化」といわれ、生産機能が中国などに出ていき、本社機能が東京に行くというところが財政を苦しくしている理由でもあります。それをこれから取り戻すというよりも、もう一度この地域の経済を復活させて、できれば国に税金を払わないで、地域に税金を払いたい。そういう仕組みがどうしたらできるかなぁ、ということを考えています。
さきほど片山大臣の発言が紹介されましたが、われわれが5兆という税にふれたのは2年前ですが言ってきてました。そのときは「とんでもない」と言われた総務省(旧自治省)の大臣が自ら言うようにやっとなったかなぁという感じです。
もう1つ、きょうの報道の中にあるのは、「しかし、交付税は変えない」というのが総務省のスタンスで、あれではダメだと思います。「各省がもっている補助金はやめて、税金を回します」というのではなくて、「総務省自身がもっている交付税もいっしょに削りながら地方の税を増やす」ということでないといけない。
府県では東京都以外、いま交付税をもらっている団体がほとんどなんですね。市町村でも大多数の市町村がもらっている。関経連の公式の提言で「せめて交付税もらうのが半分ぐらいになるような仕組みができないか」と公式の提言の中に入れて出したら、総務省の局長から電話かかってきて、「とんでもないこと!」と怒られたんです。きょうの新聞ではそのことを総理が言っているようですが...。これも総務省の片山さんは反対かもしれないけど、総理がそこまで言うようにやっとなったかなぁと、たぶん実現は相当先かもしれないけれど...。そういう発言が政府・政権の中からも出てきたというのが大いに期待したいと思います。
コーディネーター/政井氏
関経連の先進性はすごいですね。それでは重森先生お願いします。
重森氏
地方分権と税源移譲、地方交付税改革の問題についてはほとんど同意見で、確かに第一次地方分権改革を終えて、第二次地方分権改革に進めていくという場合に、財源・税源をどうするかというのは最大の問題だと思います。
昨年6月の経済財政諮問会議でも同じように交付税や国庫補助金に依存した財政運営が地方の自立をさまたげてきたということで、今後の地方の自立を促進するためにこの交付税・補助金の改革を進めなければいけない。
税源移譲の問題については、財務省が強力に反対して、結局、その表現としては税源移譲を含め、国と地方の税源配分の見直しということで、「税源移譲」という言葉が一応入りましたが、明確に「国から地方に税源を移譲する」ということになってないわけです。「交付税補助金を減らしながら、市町村合併を促進し、そして行政のスリム化を進めていく」という路線と、「きちんと税財源を移譲し、課税権なども拡大していく」という地方分権の流れと、この2つの流れがいま微妙に絡まり合いながら進んでおり、その中で地方自治体の関係者の皆さんはどういう道を選択するのか、ということについては慎重に判断をすべきではないか、というふうに思います。
そういう中で合併特例債というのは、地方分権という点から考えましても、いまの財政危機の克服という点から見ましても非常に大きな問題をはらんでいます。
この合併特例債というのは、1999年の合併特例法の改正で導入されたわけですが、合併市町村のまちづくり事業推進のための措置ということで、2004(平成16)年度までに合併した市町村のあくまでも建設事業です。
合併特例債は保育士さんを雇うとか、ホームヘルパーさんを雇うというような人件費に使うことではなくて、その建設事業に95%の起債充当をみとめるということです。95%は借金で建築事業ができるようにしますよ、ということです。
そして元利償還するときに「7割を地方交付税で措置をします」ということになっており、これはまさに合併をすればこういうハコモノの事業ができ、その元利償還は交付税で措置をするということですから、実際上は特定目的のために交付税を使うという、交付税の特定補助金化という側面をもっていると思います。
総務省のホームページで、どの市町村とどの市町村が合併すればどれぐらいの特例債がでるのかはすぐに出ます。門真・守口が合併したときに合併特例債がどれぐらいになるかということです。10年間で402億円の標準全体事業費(a)が可能であり、そのうちの地方債でまかなう部分が383億円、その7割の地方交付税に算入できるのが268億円です。合併以前の市の整備ということで、標準規模(b)40億円の基金が集めることができる。臨時的な経費で15億円。aとbを合わせて現在の両市の投資的経費と比べますと約95億円。一頃もう少し大きかったのですが、最近の税収が減ってくる中で門真も守口もかなり建設事業費を抑制していますので、95億円ぐらいになっています。それに比べますと10年間で440億円ですから、約47%増しの建設事業ができるということですし、それは全部借金ということになるわけです。これはまさに自前の財源で事業をしていくということではなくて、借金ということになります。これは将来、借金として残っていくわけです。
さきほどご指摘があった80年代の終わりから90年代にかけて、地域総合整備事業債というようなことで「単独事業をやれば将来地方交付税でみますよ」、というふうにいったのですが、思うように地方交付税が入ってこないという状況があるわけです。大阪府下の衛星都市の財政が非常に悪化したところをみますと、その時期にかなりこれを活用して、単独事業をすすめたところが財政危機に陥っています。
ですからこの特例債をやるのはいいのですが、地方交付税はもう46兆円の特別会計の借金をかかえている。毎年10兆円以上の財源不足があり、相当これは改革しなければなりません。そういう中で合併特例債の部分は保証されますが、それ以外のところの交付税は減り、交付税全体としては減っていきます。事業をやったけども、交付税は思うように入らないという、そういうことになりかねない性質のものです。
もし、全部の市町村が1000ぐらいに合併したとしますと7兆円ぐらいの特例債が発行されるという計算になると思います。全部の市町村が広域市町村圏に合併したとなると4兆円ぐらいの地方交付税が削減できるという試算があります。
ですから合併して4兆円地方交付税が抑制できても、7兆円の特例債を発行したのでは財政危機の克服にはつながらない。この特例債をあてにして何か事業やろう、門真・守口でどんな事業ができるか、各課で提案しろ、というようなことをやっているようです。こういった発想というのは非常に大きな問題で、ますます財政を厳しくするのではないかと思うので慎重に検討すべきだと思います。
コーディネーター/政井氏
つい2週間ほど前、田辺で朝日新聞主催の合併シンポジウムがあり、田辺の助役が「いろいろ赤字の原因はなにか、そんなことはいまさら言ってもはじまらない。とにかく苦しい。合併しなければやっていけない。早く合併しなきゃこの制度が...、ただ国の言う通り10年間ちゃんと保証してくれるなんて私たちは思っていない」「早く合併して、早くカネをとって途中でずらかられてもいいようにする」とは言わなかったが「これが自治体の本音だ」と非常に正直なことをいったので、会場はざわめきました。それを聞いた田辺市民が「なんとレベルの低いことを言う助役だ」「そうだおまえの言う通りだ」という両方の声があったそうで、それほどこの問題は難しい。つまり国が保証していることさえ完全に保証されるかどうかも分からない。国家財政が破綻するかもしれないわけで、それは相当深刻なお話です。
そういうことを全部考えて議論しなければならないので、きょう1日でとても結論がでませんが、いろいろな問題点がみえてきたとは思います。
きょうのシンポジウムはこれぐらいにしまして、また皆さん方でいろいろな勉強をしていただきたいと思います。きょうはどうもありがとうございました。
(−拍手−)
司会
本日は門真市民公開シンポジウムに多数ご参加くださいまして誠にありがとうございました。約2時間にわたる今回のシンポジウムを通じて、合併について一段と認識、選択肢が広まったものと確信しています。
わたくしたち門真市職員労働組合は今回のシンポジウムを契機に引き続き市民の皆さまに情報をお知らせし、合併について共に考え、共に議論していきたいと考えています。今回のシンポジウムや合併について、門真市職員労働組合までぜひご意見をお寄せいただくことをお願いしまして、本日は終了させていただきます。
(−拍手−)
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