2011委員長対談

海外公演も学校寄席も苦労は多いけど
落語の魅力、伝えたいから

 

 今回は、今年11月に行われる門真市職員労働組合結成40周年記念市民のつどいで公演をお願いしている桂小春團治さんに登場していただき、門真市で過ごされた子どもの頃や落語の話などをうかがいました。

対 談

 落語家 国際落語振興会理事長

      桂 小春團治

 門真市職員労働組合委員長

      西本 孝雄


 門真で育ち、落語に出会う

 

委員長 門真出身とうかがっていますが


小春團治 生まれて7歳くらいまで大阪市です。7歳から28歳まで21年間門真だったので、プロフィールは門真出身です。


委員長 柳町で育ったとか?


小春團治 門真小学校の裏手で、昔、公民館のあったところの裏です。
小学校2年からは門真小学校で、中学校は門真三中です。


委員長 いつ頃から落語に興味をもたれたのですか?


小春團治 小学校のときですね。必修のクラブで、野球の好きな子はソフトボール部に入ったり、サッカーの好きな子はサッカー部に入ったりするのですが、演芸の好きな先生がいて、「芸能部」があったんです。当時の大阪の子どもは、土曜日の昼、学校から帰るとテレビの「道頓堀アワー」「吉本新喜劇」と、お笑い目白押し時間帯をずっと見てました。コント55号の全盛の時代、ドリフの時代と、お笑い番組がすごく多かった。お笑いに興味があって、「落語・漫才などをやるクラブ」と説明があったんで入りました。そのときにはじめて人前で落語を演じたんです。教室の教壇の上に座布団を敷いて、その上に座って、クラブの仲間内で見るという、ただそれだけのことなんですけど。小学校6年生の頃です。


委員長 大学を中退して、いまの師匠、春団治師匠に入門されたと聞きましたが…


小春團治 大学いうても、落語家になろうか、ちょっと考えるためみたいなもの。結論がついて、もう4年いる必要はない、早いめに行ってしまえ、という感じでした。


委員長 中学校、高校は?


小春團治 中学校にクラブはなかったんですけども、同級生にたまたま落語のすごい好きな友達がいまして、落語の本を持ってきて、学校帰りに「お前、こんな本を読むのがうまいから、読んで聞かせてくれ」というわけです。落語の本というのは台本みたいなもんで、「こんにちは、おまはんかいな、こっちに入り、どないしてんねん」「いや、体が冷えてどうもしょうがおまへんねん」ということを歩きながら読んでやる。友だちは「わあ〜」と喜んでいる。次の日は「今日はこの話を読んでくれ」と、毎日ちがう話をそいつに読み聞かせて、楽しんでいた。
 小学校の「芸能部」では、落語だけではなく、漫才もコントも、漫談も詩吟もあってその1つのジャンルが落語だったというだけなんですが、中学校に入ってからその友だちの影響で落語が好きになっていく。高校受験のときはもう落研のある高校に行こうと思っていました。地元の門真高校は新設で落研がなかったので、大阪市立高校に進学しました。


国際落語振興会理事長 として世界各国へ



委員長 経歴を拝見すると、世界でたいへん活躍されていますね。


小春團治 はい、NPOを立ち上げて理事長をしています。海外は大使館主催の公演や、国際演劇祭の招待公演ですが、招待といってもほとんどがその全額を賄えないという状況です。三味線、太鼓、字幕でやりますので操作するオペレーターも必要です。落語はひとりの芸ですが、総勢で4人〜5人ぐらいです。その渡航費や宿泊費、当然プロなのでギャラが必要ですし、そういうことを考えるとまったく向こうが提示する金額ではできない。どうしよう? 結局NPOのほうが助成金を受けやすいということで、NPO法人をつくりました。
 はじめは海外公演のために始めたんですけど、やっているうちにどんどん活動が広がって、小学生のために落語鑑賞会もするようになりました。
 僕らの高校や中学のときも、狂言を体育館でとか、文楽をどこかのホールに観に行ったりする古典芸能鑑賞会というのがもありました。しかし、狂言や文楽では生徒が退屈する。最初は、もう30年ぐらい前ですが、東京のプロダクションが「落語も古典です」という活動をして、古典芸能鑑賞する学校に行って落語をして、それが全国に広まったんです。


大切な出会いのタイミング



委員長 北河内の大阪労連北河内支部協議会の女性部が毎年秋に文化行事をされていて、ちょうど3〜4年前でしたか、小春団治さんが「冷蔵庫哀詩」を演じられたのを観ました。私の娘も「中学生のときに小春団治さんが学校に来て『冷蔵庫哀詩』を観た」と言っていました。


小春團治 学校寄席の一環です。古い話ばかり続くよりは現代的な話がなじみやすいからということで学校からはそれをやってくれとネタ指定されます。ただ中学校も学校によってものすごく差がある。悪いところへ行くと鑑賞態度が非常によろしくない


委員長 門真は?


小春團治 門真の中学校ではやったことがないです。
 中学校はどこでも、先生が刑務所の看守のように立っていて、笑える雰囲気ちゃうんです。誰かが騒がないように、先生はそれしかない。笑えるような雰囲気をつくるという気がない。生徒も「クソッこんな古くさい、おもろないもん見せやがって」みたいな感じで、はじめて見た落語が記憶に残らない。仕事ですから私もギャラはもらうのですが、お金をもらいながら自分の首を絞めているような気がします。
 小学校では当然、子ども向けにものすごくアレンジします。まず扇子と手ぬぐいの使い方では、「うどんを扇子で食べてみぃ」という、ちょっとワークショップ的なこともやるんです。「こんな短い扇子でもこうしたら釣り竿に見えるやろ」とやって見せたら、「おお、見える!」と、目をきらきらさせてる。その後で子どもでもわかりやすい『平林(たいらばやし)』という噺をするとみんなゲラゲラ笑っています。小学校の間に落語をやると、古くさい先入観もなく、「落語はものすごいおもしろいもんや」と思って大人になってもらえる。
 この数年の出会いのタイミングで、ものすごく変わってくるので「小学校の間にできないんですか?」と校長に聞くと、「小学生には古典芸能は難しいものやし、予算がない」といわれる。小学校の間は音楽会や演劇を見て、中学、高校でワンランク上がって′テ典芸能を見せる。でも、古典芸能といっても能とか歌舞伎とか、大人が見てもわからないものです。日本人なのになんだかよくわからない。
 落語の場合は江戸時代を語っていても全部現代語でしゃべっていますので、まず言葉がわからないということはないですし、子どもにわかりやすいようにアレンジします。それで、なんとか小学校の間に落語ができないかと思い、予算が学校にないならば、自分で調達をしようということで、NPOで申請して、文化庁と大阪市からも助成金もらって、大阪市の子どもたちを繁昌亭とか、ワッハ上方に無料招待しています。それには大阪市の教育委員会が付いてくれて、学校単位で平日の午前中に先生の引率のもとに来るので、バックステージツアーもやります。楽屋とか、舞台袖とか、コントロールルームとか、華やかなスポットライトを浴びている裏にはこんな人たちも働いているんだよという社会見学をやるんです。その後で、三味線とか太鼓の紹介をやります。大太鼓はこんなんで、三味線はこんなんで、皮はネコの皮をはっていますと。学校の音楽の時間は洋楽の楽器ばかりで和楽器にふれる機会がないので、落語鑑賞の中で邦楽の楽器にふれる機会にもする。1人の子が落語の幽霊が出るシーンをやって、他の子が太鼓とか三味線をそれに合わせてたたく。そういう邦楽に触れる時間をつくったりする。そのあと扇子と手ぬぐいの使い方とか、生徒を上げてうどんを食べさせて、最後に一席落語をやって、お開きと。それで1時間半ほどです。ここ3年ぐらいで1万人以上、招待しています。門真小学校の子も、1番最初に繁昌亭でやったときは招待しました。それは学校単位ではなくて、子供会単位だったんですが、門真小学校の生徒が朝日新聞の夕刊に写真入りで大きく載りました。


噺は日本語、字幕で通訳



委員長 海外では話は日本語で?


小春團治 そうです。


委員長 字幕が現地の言葉で。


小春團治 そうです。当然、イギリスとかアメリカは英語で、フランスはフランス語ですし、ロシアはロシア語ですが、ベルギーの首都ブラッセルはフランス語とオランダ語に近いフラマン語が公用語で2カ国表記が法律で決められているので、駅の表示なんかもフランス語とフラマン語、雑誌を買うと同じ内容のものがフランス語とフラマン語の2カ国語でつくられています。そういう2カ国語併用地域では字幕も2カ国語だから、上がフランス語で下がフラマン語。去年やった国連本部では6カ国語が公用語ですが、6カ国の字幕は出せないので、主要4カ国、英語、フランス語、スペイン語、中国語でした。いつもは高座の後ろにスクリーンをはって斜め上ぐらいに出しているのですが、両側に2カ国語ずつという感じです。


委員長 落語は日本独特のものという感じがしますが…


小春團治 どこの国へ行っても落語というスタイルのコメディはないといわれる。だいたいコメディというと立ったままで、漫談ぽいですから。落語のように座って1人で何人も演じわけて、扇子と手ぬぐいをいろんなものに見立てて、ストーリー性のある話をするコメディというのはない。唯一トルコに似たようなのがあって、それは立っているんですが、ひとりで演じ分ける。扇子にあたるものが箒の枝、手ぬぐいがタオルで、それをいろんなものに見立てるという行為がすごく落語と似ているそうです。見たことはないのですが、一度ジョイントできる機会があったらなと思っているのです。


落語家志望は繁昌亭チルドレン



委員長 いま、落語家志望者は増えていますか?


小春團治 多いですね。繁昌亭ができる前に比べると年間入ってくるのが倍以上で、毎年10人以上入っています。われわれは繁昌亭ができる前に入ってきた弟子と、できてから入ってきた弟子をわけて、繁昌亭以降の弟子を繁昌亭チルドレンと(笑)。前まではあっちの落語会、こっちの落語会と自分で探して行ったんですが、いまは繁昌亭に行けば毎日やっていますから、勉強しやすくなった


委員長 好きなことと言っても、修行中は大変でしょう?


小春團治 なんでも仕事は大変ですけど、特殊なスタイルですしね。昔は住み込みでやっていたらしいですが、いまはほとんど通いです。うちなんかマンションですから弟子を住まわせることできませんしね。


委員長 お弟子さんは何人ですか?


小春團治 いまは1人です。「弟子にしてくれ」というのは来ますけど、話をして水際で思いとどまらせたのは5人ぐらいいます。家出してきても途中でやめるのもいるし、残っているのは1人だけです。その弟子も、先月、修行を終えてひとり立ちしました。


委員長 ひとり立ちというのはどういう時期に?


小春團治 師匠が決めるのですけどね。うちはだいたい3年でしたけど、なんで3年かというと、石の上にも三年ということで決めたんでしょうか。ああ、枝雀さんのところは2年でした。そのかわり、向こうは住み込みでした。生活をともにするかわりに2年で出すと。
 私自身は3年でした。門真の実家からずっと通っていました。師匠の家は住吉だったんで、8時前に家を出て、京阪、環状線、阪和線を乗り継いで、9時前について、掃除したり、稽古したりして何もなければ5時に帰る。仕事があるときはカバンを持っていっしょに行く。師匠は車を持っていないので、仕事には電車で行くんですが、師匠が酒が好きやからお客さんが一升瓶を持ってきてくれるんです。師匠は客と飲みに行く。「おまえ、これを持って帰って明日持って来てくれ」といわれて、神戸から一升瓶と花束と衣装を門真まで持って帰ったこともあります。次の朝、8時前に出たら満員電車。それで花束はあるわ、衣装カバンはあるわ、一升瓶は6本あるわで、「途中でこけて割ってしまいました」と言うたろか思うぐらい、手がちぎれそうなって。しかも満員電車ですからね。それに比べたら今の弟子は、車で現場から家まで、しかも運転しているのは僕ですからね。どんだけラクなんやろうと(笑)。



落語の鳴りものは噺家で持ち回り



委員長 鳴りものというのは、お弟子さんがされるんですか?


小春團治 あれみんな噺家なんです。三味線だけが専門職で、あと太鼓、笛とかは全部落語家が持ち回りでやっているんです。僕らのときは先輩に教えてもらって勉強しました。


委員長 仕事に行かれるときは、鳴りものの人といっしょに?


小春團治 舞台チェックは自分が先に行ってやります。弟子はいっしょに行くので、太鼓を組んだりというのは弟子がやる。他のメンバーは関係ないので現場集合です。


委員長 舞台チェック?


小春團治 会場設営がまったくの素人さんの場合はこっちで指示するんです。客席の形状や、舞台の高さによって高座の高さが変わりますから。照明とか音響の問題、そのへんのチェックを早めに行ってやります。それが字幕になるともっとややこしい。プロジェクターの位置とか、全部、客席に座って確認する。落語の場合は会話なんで、スピードが速い。なるべく目線の移動が少ないように、体に近いところに字幕を出そうとすると、今度は席によって、僕が字幕にかぶってくる。その位置関係をいろんな場所に座ってチェックしながら、どこに字幕を出すのか決める。セリフによって字幕が一行の場合もあれば、5行の場合もあって、その5行のときにひっかかるとかものすごくセッティングに時間がかかる。それを外国では言葉が通じないからたいへんです。いちいち頼んでいると時間がかかるので、スタッフが少ないところは自分たちで脚立にあがって照明を動かしたりします。
 海外に行くと大使の公邸で食事会とか招待されるのですが、食事会のための正装を持って行ったら飛行機の重量制限にひっかかって超過料金ですから持って行きません。高座の台はビールケースを積み上げていてもわからないんですが、仕事に必要な衣装が2組、太鼓もあるし、座布団も毛せんも持って行く。ビデオプロジェクターも、コンピュータもケーブル類も。なので、大使公邸に招待受けてもいつもノーネクタイです(笑)。

落語に興味をもてる いい機会にしたい

委員長 11月の市職労結成40周年記念市民のつどいはよろしくお願いします。もうすでに演目を考えられていますか?


小春團治 対象は一般の方なんですよね。組合員さんばかりではなくてね。


委員長 組合員も参加しますが、市民の方にも来ていただこうと思っています。私もそうですが、落語を聞くのは初めての方が多いと思うんです。小学生レベルではないと思いますが、落語に対するそれぞれのイメージがあるかもしれませんけどね。でも、落語を知るいい機会にできたらなと思います。お弟子さんも出演されますか?


小春團治 僕よりも上の人間を呼んでいます。上の人間と前にもう1人がなまの三味線と太鼓をと考えています。


委員長 楽しみにしています。よろしくお願いします。