母の日・父の日募金キャンペーン

遺児らの進学 支えて

 2010年5月7日付「毎日新聞」より

  
  働きづめの母気遣い「楽させたいが、勉強も…」

9日は母の日。「プレゼントをあげる親がもういない」という読者の声をきっかけに始まった「母の日・父の日募金キャンペーン」は今年で6回目。亡き親への感謝の思いを次世代を担う子どもたちへの支援へと、毎年多くの募金が寄せられています。今回は、父の分まで懸命に働く母を気遣う、高校生遺児たちの姿を紹介します。【山崎友記子】

 父のひざに乗って遊ぶのが大好きだった。大阪府門真市の府立高校2年、南真央さん(16)にはそんな記憶がかすかにある。

 真央さんは4人きょうだいの末っ子。調理師をしていた父は朝早くから夜遅くまで働いていたが、収入は不安定だった。真央さんが生まれると、母和栄さん(47)も学校給食の調理員として働き始めた。やがて父は体を壊し、母が一家6人の暮らしを支えるようになった。
     
 父が逝ったのは、真央さんがまだ甘え盛りの小学2年のときだ。悲しみにくれる間もなく、母は一層忙しくなった。兄や姉も帰りが遅い。独りぼっちの家で寂しくなっては、職場にいる母の携帯電話に「何時になったら帰ってくるん?」と電話をかけた。

 どんなに生活が厳しくても、明るく振る舞う母。「お父さんが生きていたら、お母さんはもっと楽やったのに」。口にはできないけれど、ずっとそう思ってきた。

 それでも真央さんはあしなが育英会の奨学金を借り、高校に進むことができた。スポーツは大好きだが部活はせず、週の半分は放課後にラーメン店で働く。バイトから帰ると、一足早く帰宅した母がソファで疲れ切って眠っている。今年度から公立高の授業料が無償化されたものの、自己負担がなくなったわけではない。学校で教材費徴収のプリントが配られるたびに、家に持ち帰るのがつらい。

 「早く社会に出て、お母さんを楽にしたい」。進路希望調査にはずっと「就職」と書いてきた真央さん。でも学校で開かれた服飾系専門学校の説明会で、学生が企画したファッションショーの映像を見たときは、心がときめいた。「私も勉強したい」と思ったものの、学費は高いという。母が兄や姉の進学でローンを借り、まだ返済が終わっていないことを知っている。

 母は言う。「子どもたちに支えられてきた。寂しい思いもさせた。お金は気にせず、好きなことを思い切りやってほしい」

 進学か、就職か。真央さんの気持ちは揺れ動いている。

 高校無償化、恩恵少なく
 病気や自殺などで親を亡くした子たちを支援する「あしなが育英会」。今春は1335人が新たに奨学金を利用して高校に進んだが、不況の影響が深刻だ。09年度の利用者(高校生)は4515人で、00年度の1・65倍。希望者が増え続ける一方、寄付は伸び悩んでいる。

 高校授業料の無償化も、寄付が減った一因という。高校は授業料以外の経済的負担も少なくないが、すべて無償になるとの誤解もある。同会では「奨学金利用者の6割は既に授業料減免を受けており、無償化による恩恵は少ない。かえって一般家庭との格差が広がる懸念もある」と理解を求めている。

 奨学金のおかげで、将来に希望を持てた 父亡くした高校生、街頭で訴え
 静岡県の県立高校3年、住友史乃さんも、父を亡くしてあしなが育英会の奨学金で高校進学を果たした一人だ。4月に全国一斉に行われた「あしなが学生募金」のイベントでは街頭に立ち、思いをつづった作文を読み上げた。

 私は一昨年の冬に大好きな父を肝臓がんで亡くしました。生きる希望を失いましたが、父が昔から「しっかり勉強して、お父さんとお母さんを安心させてくれよ」と言っていたことを思い出しました。今の私にできることは勉強を一生懸命頑張り、立派な大人になること。父の死の経験から、将来は人の生命にかかわる職業に就きたいと考え、医者を目指す道を選びました。

 その道を阻むのはお金の問題でした。母は二つの仕事を掛け持ちし、朝から夜まで働いています。大学の話をしたら、さらに負担をかけてしまうと思い、なかなか切り出せずにいました。

 突然母に「大学はとても無理だよ」と言われた時はショックでした。今まで家が大変だったため、多くのことをあきらめてきました。私は将来の夢まであきらめなければならないのか。悩む日々が続きました。

 そんな時に出会ったのが、あしなが育英会でした。同じ境遇の仲間ができました。一人で抱え込むしかなかった悩みや不安を共有でき、将来に希望を持てました。

 また、奨学金のおかげで、母と将来についてしっかり話し合うことができました。母も私の夢を認め、応援してくれることになりました。

 家が貧しいために、夢をあきらめざるを得ない子どもはたくさんいます。この現状を多くの人に知ってほしいです。


 ■母の日・父の日募金の送り先

 現金書留は〒100−8051東京都千代田区一ツ橋1の1の1 毎日新聞東京社会事業団。郵便振替は00120・0・76498。どちらも「母の日・父の日キャンペーン」と明記し、よろしければ寄付への思いやメッセージを添えてください。各地域面にお名前と金額を掲載しますが、匿名希望の方はその旨も明記してください。問い合わせは同事業団(電話03・3213・2674)。

 昨年は計413万2475円が寄せられ、全国の遺児支援団体や児童福祉施設に届けました。