大阪府門真市 おおわだ保育園

楽しいトイレ こども環境学会のデザイン賞を受賞

   2006年9月9日付「朝日新聞」より

 明るい色/天井におもちゃ 段差・扉ない入り口


           子どもの「自立」早く

 大阪府門真市野里町のおおわだ保育園の保育士らが、「暗くて汚い」というトイレのイメージをなくそうと、子どもの身長や使い方に合った理想のトイレについて議論し、デザインに生かして改修したところ、子どもが一人で排泄できる時期が半年早まった。

 研究者からの評価も高く、トイレは今年度のこども環境学会のデザイン賞を受賞した。(滝坪潤一)

 新しいトイレは昨年11月に完成した。約30平方b。壁には明るい赤、青、黄と色を塗り、天井にはおもちゃの飾りをつるして、思わず行きたくなるような楽しい空間を目指した。

 同園ではおやつの前や昼寝の後など日に7回、一斉にトイレに行く時間を設けている


 保育室とは板の間のフローリングでつながっている。2カ所の入り口には扉はなく、スリッパをはかずに、自然に子どもは入っていける。もう一つ設けた入り口は、ひざをついてくぐるようにしており、子どもの遊び心をくすぐった


 窓側に並ぶ四つの洋式便器は、前向きにも後ろ向きにも、座れるようにした。
 1歳児は不安定で、手でつかまるものがほしいため、前向きに座って送水管につかまることがあったからだ。手すりもつけ、トイレットペーパーも、前向きでも後ろ向きでも取りやすいように、便器の後ろと横に取り付けた。


 洋式便器はほかにもう一つ。「おまる」と並べた。 段階に応じて排泄の仕方を覚えさせるためだ。いずれもおむつ交換場所から見える位置に置かれ、保育士の目が行き届く。


 男子用小便器は二つ。外にこぼさないよう、園に通う子どもの床からおちんちんまでの高さを測って設計した。


 3方の壁は、大人の肩ぐらいの高さに木を透かし張りで組み、わずかなすき間をつくった。外側から子どもの動きがわかる。子どもはすき間から保育室を見渡せ、安心する。

 

体に合わせ設計も見直し


 開園から25年がたった昨春、園長の馬場新一郎さん(35歳)は老朽化したトイレの改修を考えた。保育研究者同士のメールで、トイレコ ンサルタントの村上八千世さんと知り合った。村上さんは、公共トイレの設計にアドバイスしたり学校に行ってトイレの使い方を教えたりしている。


 馬場さんは、村上さんを交え、保育士らと月1、2回の「トイレ会議」を重ね、何が不便なのかを考えた。

 同園の1〜2歳児は48人。おむつをしている子、小便をうまくできない子、大便のお尻がふけない子 …と様々な園児がいて、トイレの時間は保育士は大忙しだ。


 しかし以前あった和式便器は個室で、保育士の目が届きにくかった。また、子どもも怖がって、一人では用を足せないこともあった。洋式便器は個室ではなかったが、座る所が高すぎて子どもの足がつかず、保
育士はけがをしないかと緊張していた。


 保育士や馬湯さんらは「トイレの構造が、保育士の余裕をなくし、子どもの自立も妨げているのではないか」と考えた。

 段ボールやおまるを実際に並べて使 いやすい配置を工夫し、保育士自らペンキ塗りを手伝って仕上げた。改修費は810万円かかった。


 効果は表れている。子どもがすすんで自分からトイレに行くようになった。保育士が抱きかかえて便器に座らせていた子が、自分ひとりで座れるようになった。

 トイレを怖がっていた子が「うんち出たよ」と笑顔で帰ってくる。スムーズに用を足せるようになり、それまで15〜20分かかっていた一斉トイレの時間は10分以内に短縮され、絵本の読み聞かせの時間にもう1 冊読む余裕ができた。


 同園に通う子どもの平均的なトイレの自立は2歳半ごろだったのが、半年早まり、2歳になる直前になった。園でのうんちの回数も増えたという。
 

 保育士の主任を務める本田美佐枝さん(36)は「子どもは遊び場の延長のように感じている。安心して見ていられるし、保育士にも余裕が生まれました」。

 高崎健康福祉大短期大学部の岡本拡子助教授(幼児教育)は「この保育園のように子どもの使いやすさを求めてトイレを考えることは、保育を見直すきっかけにもなるはずだ」と話している。


 デザイン賞受賞記念に催し


 おおわだ保育園は19日午前9時半から、同保育園で、こども環境学会のデザイン賞受賞を記念して公開保育を開催、その後「トイレは子どもの宇宙だ!トイレが変われば保育も変わる」と題した公開研究会を開く。牛後1時15分かちは〕白梅学園大の無藤隆学長が「園環境を活かした保育」について講演。東京大大学院の汐見稔幸教授らが参加したシンポジウム「保育園は子どもの宇宙だ!」もある。無料。問い合わせは同保育園(072・882・3255)へ。