派遣労働など非正規雇用の拡大、バブル崩壊後のリストラや倒産のあおりで、企業が保険料の半額を負担する社会保険からはじき出される人が増えている。
そうした人たちの受け皿が国民健康保険だ。時代の波が、国保の加入者を増やし、保険料を払えない人たちをも増えている。
大阪府門真市北部、老朽化した文化住宅の跡地に建てられたアパートに 住む京都府出身の男性(31)は、派遣社員として倉庫で働いている。
時給は千円。収入は家賃や食費、光熱費などに消え、3年前に加入した国民健康保険の保険料支払いは滞りがちだ。滞納額は12万円になる。
5年前から四つの派遣会社を転々とした。どこも社会保険に入れてくれなかった。「毎日フルタイムで働いているので、入る資格はある。でも、なかなか言い出せない」
最初の会社では長期雇用の約束だったが、「仕 事がない」のひとことで3カ月で解雇された。
「弱い立場だから、保険に入れてくれと言えば解雇されるのではないか、 と考えてしまう」
会社は2カ月を超えて常時雇用する従業員を社会保険に加入させ、保険料の半額を負担することが法律で義務づけられている。フルタイムの派達社員も例外ではない。
だが実際は、中小の派遣会社で、従業員を社会保険に加入させないケー スが後を絶たない。
個人加入できる「アルバイト・派導パート関西労働組合」(大阪市)に寄せられる相談は、2年前の発足時から社会保険をめぐるトラブルが目立つ。
「募集広告には社保完備とあったのに、入れてもらえない」
「社保に入れてほしいとかけあったら、解雇をちらつかされた」
仲村実・事務長(58)は言う。「正社員に比べ収入や将来が不安定なうえ、社会保険の権利まで奪われ、より重い国保の負担を強いられている」
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バブル崩壊後、社会保険から国保に移る人が増え続けた。
厚生労働省の統計によると、90年度は274万人だった移動人数は、02年度は508万人にはば倍壇。景気回復の兆しが 見え始めた03年は微滅したものの、それでも493万人だった。
6月中旬、3歳と1歳の娘を連れ、門真市役所の国保窓口を訪れた主婦(24)が詰め寄った。「こんな高い保険料、払えません」。手には保険料の通知書。夫(25の解雇で社会保険から国保に移ったばかりだった。
家電販売会社で働いていた夫はノルマ未達成を理由に、昨年10月に解雇された。内装業に就いたが、月収は20万円から十数万円に減り、社会保険で年額10万円だった保険料は、国保では25万円にはね上がった。
「子どもがいて保険証を切らせない。保険料は払いたいけど、生活に余裕がない」。すでに滞納額は16万円に上る。
「社保から国保に移る人は、倒産やリストラで求職中の人が多く、収入は不安定だ。減額捨置をとっても、初めから滞納というケースも多い」。
長年、窓口で相談にあたってきた職員の実感だ。
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門真市の国保料の収納率はバブル崩壊後の93年度は84%。それが03年度には全国の市町村で最低の76%に下がった。この間、全国平均は93%から90%に。門真市の下がり方は突出している。
定住者の割合が少なく、働く場を求めて常に新しい労働力が流入する門真市。園部一成市長は「構造的に、景気の変動や雇用形態の変化に影響されやすい」と言う。
熊沢誠・甲南大名誉教授(67)=労使関係論=は、大阪府はじめ全国で、派遣など非正規雇用の実態を計究する。
企業負担のある社会保険を逃れようと、1カ月更新の「細切れ契約」にしたり、労働時間を社保加入基準の週30時間をぎりぎり下回る28時間にしたり……。
「平成不況をくぐり抜ける中で、企業は非正規雇用のうまみを学んだ。非正社員化は後戻りしな い」
門真市が05年に作成した「国保収納率の分析」は収納率低下の要因として「社会保険離脱など新現加入世帯の増加」を一番に挙げた。「04年度新規加入3419世帯の収納率は64%。全体収納率低下の要因となっている」
景気の拡大局面はバブル景気を技いたとされる。だが、雇用の変容がもたらした門真市の悩みは深い。
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社会保険
会社が従業員を加入させる健康保険と厚生年金などで、健康保険には、中小企業向けの政府管掌健康保険と、大企業向けの組合管掌健康保険がある。
保険料は会社と従業員が折半。自営業者や無職者が入る国民健康保険より、個人の負担は軽い。旧厚生省の基準では、パートなど非正規社員でも、正社員の4分の3(過30時間)以上働かせている場合は、加入させなくてはならない。
「再チャレンジ推進会議」 (議長・安倍官房長官)は、基準を緩和し、対象者を広げるよう求めている。