列島発 自治体の財政指標

      2008年10月6日付「朝日新聞」より

 全自治体の「連結実質赤字比率」が9月末、総務省から初めて公表された。自治体財政健全化法で新設されたこの指標は、一般会計だけでなく、病院などの特別会計も合わせた全会計で赤字の重さを自治体に示し、健全化への自助努力を早めに促す。ただ、財政難の背景には地域の過疎化や貧困化もあり、再建への道のりは険しい。

                 (成田認、三島庸孝、小野智美)

 

「黄信号」回避 険しい道 

      大阪府門真市

 

 今月、松下電器産業から社名を変えたパナソニックの本社がある大阪府門真市。07年度の連結実質赤字比率は16・63%で 「青信号」だった。だが、黄信号がつく17%は目前で、赤字額にしてあと1億円弱。先行きに
は暗雲がたちこめる。


 市が頭を痛めるのは、人口の4割強(約5万6千人、3万世帯)が加入する国民健康保険の赤字だ。07年度は貯金にあたる財政調整基金を崩して約9億7千万円の単年度赤字を穴埋めしたが、累積赤字は約58億5千万円に。07年度なみの赤字が続けば、3年後には基金も底をつ く。


 10年前、国保の累積赤字は1千万円ほどだった。当時の保険料収納率は82%。それが04年度までに全国最低水準の75%に落ちた。そこで市は保険収納課を新設して納付相談や差し押さえに力を入れ、07年度の収納率は79%に改善させた。それでも赤字は減らなかった。


 今年度も途中で払えなくなった市民がいる。府営団地で暮らす主婦(59)は「8月は払えなかった」と打ち明ける。時間給で働く夫(64)の出勤日数がお盆で減ったためだ。約500万円の年収に対し、3人の子どもの教育ローンの返済が年約200万円。生命保険を解約したが、年約56万円の保険料を払うのは厳しい。「とにかく今は病気にならないよう気をつけている」とため息をつく。


 門真市は高度成長期、工場で働く人たちの流入によって人口増加率が全国1位(65年)を記録し、木造の集合住宅が林立した。いまは老朽化して低家賃のその住宅群が低所得層を引き受け、市の生活保護率は全国平均の約4倍にもなる。

 一方で、法人市民税は松下電器の工場移転などに伴い激減。88年度の約74億5千万円をピークに、07年度は約22億円まで落ち込んだ。
 黄信号になるのを防ごうと、市はかつて1440人いた職員を今年度約970人まで減らし、15年度には825人にする。公立保育所の民営化や市有地売却も進める。


 国保も収支改善計画を打ち出した。差し押さえの強化や医療費の抑制で、13年度には単年度黒字化を、14年度には収納率90%を目指す。


 ただ、収納率アップに特効薬はなく、人海戦術に頼るしかない。保険収納課の政博之課長「いまは、『計画通り収納率を上げ、黒字化を達成する』としか言えない」と歯切れが悪い。

 

自助努力には限界も


 連結実質赤字比率の指標は、自治体が実際よりも財政を良く見せかける「抜け道」をふさいだ。一般会計で財政状況をみていた従来は、たとえば国から病院会計に対して支給された交付税を一般会計に入れることで、一般会計の収入を増やしていた自治体もあった。全会計を合わせて収支をはかる連結実質赤字比率なら、そんなごまかしはきかなくなる。


 やはり自治体財政健全化法で新設された「将来負担比率」も、自治体本体だけでなく、自治体が設立した会社や公社も含めて負債額の重さを測るものだ。


 同法の解説書を書いた小西砂干夫・関西学院大教授は、この2指標を「これまで見えにくかった部分を見えやすくした」と評価。白治体に「もう漫然と事業はできない」という緊張感をもたらしたとみる。門真市に見られるように早めの自助努力を促す効果もすでに表れている。


 ただ、地域に生活困窮者が増えれば国民健康保険は赤字になる。 赤字だからとやめることもできず、市単独の努力には限界がある。門真市の河合敏和財務課長は「国保のために市全体のサービスを下げるような仕組みが本当にいいのか」と疑問を投げかける。


 過疎に悩む赤平市の伊藤寿雄企画財政課長も問いかける。「不採算でも必要な事業はある。公共交通網を縮小し、学校を統廃合し、田舎の人はあとどれだけ痛みを背負うのか」


 神野直彦・東大教授(財政学)は「国の十分な財源保障がないまま自治体に財政再建を迫れば、サービスが低下して人口流出を招きかねない」と心配する。

 

特別会計含め公表 健全化法で義務づけ


 昨年できた自治体財政健全化法は、全自治体に毎年度、財政状況を
四つの指標で測って公表するよう義務づけた。


 @一般会計を中心とする年間収入規模に対する「実質赤字比率」A病院などの特別会計も含めた全会計の「連結実質赤字比率」B年間の収入規模に対する借金返済額を示す「実質公債費比率」C自治体が設立した法人なども含めた負債額を示す「将来負担比率」。AとCは同法によって新設された。


 @〜Bの結果は「健全」「早期健全化」「再生」に3分類される。いわば
青信号、黄信号、赤信号だ。@Aで黄信号となる基準値は各自治体の収入額に応じて幅があり、いずれの自治休も40%以上なら赤信号になる。

 07年度の連結実質赤字比率のワースト1、2位は北海道の旧産炭地、
夕張、赤平の2市で、ともに赤信号。黄信号は4道府県内の9市町だった=表。


 08年度から、赤信号だと国の管理のもとでの財政再建が義務づけられ
る。黄信号でも再建計画策定が課せられる。

 

財政健全化法にもとづく 門真市の4 指標 (平成19年度決算ベース)が明らかに

財政健全化法を考える

「門真市 連結赤字収支比率が 14.6% 26位」を考える