住民のいのちとくらしを守る 自治体財政の確立を

  財政健全化法を考える

 
  2007年6月に成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(以下「財政健全化法」)」は、国による行政的統制が強まり、「夕張ショック」に乗じて自治体の「自主的」リストラを促進する圧力となる恐れがあります。
 門真においても、財政健全化法を理由に、住民サービス・行政水準の引き下げ、職員削減や賃金引下げ・非正規化などの人件費抑制などの自治体リストラが加速する動きがあります。

目次 1. 「三位一体の改革」が、深刻な地方財政危機をもたらす

             . 国の関与・統制を強める「財政健全化法」

            

             3.夕張市の破たんは政府の責任

             4.四つの指標の公表が義務 早期是正制度を導入

             5.国からイエローカードとレッドカードの押し付け 導入  

             6.四つの指標で 財政健全性を判断   

     

             7.財政健全化法施行前に、多大な影響        

            

             8.基準値―今年12月までに政省令で確定

             9.憲法が生きる地方自治の確立 自治体財政の拡充を

             ※関連

 

財政健全化法にもとづく 門真市の4 指標 (平成21年度決算ベース)が明らかに

 

  門真市職労の政策と主張    トップページ

1. 「三位一体の改革」が、深刻な地方財政危機をもたらす


  いま地方財政は危機的な状況にあります。多くの自治体では「夕張のようにならないため」といって、住民負担の強化とサービスの削減、自治体職員の削減と非正規化、民間委託化が進められています。しかし地方財政危機の主要な原因はどこにあるのでしょうか。


  総務省が発表した「地方財政の現状」)では、@大幅な地方財源不足(4兆4,200億円)と高い公債依存度(地方債依存度11.6%)、A多額の借入金残高(平成19年度末で199兆円=対GDP比38.1%)、B個別地方団体の財政硬直化(経常収支比率、公債費負担比率、起債制限比率が10年前に比べて悪化)を指摘しています。


  このことからも明らかなように、地方財政危機の主要な原因は、第一に、1990年代に政府主導ですすめた「経済対策」による公共事業の地方債償還が重くのしかかっていること、第二は、小泉自・公連立政権が進めた「三位一体の改革」です。

  三位一体の改革では、大企業本位の財政運営と国の財政再建を優先させて自治体財政を削減し、地方財政を6.8兆円(補助金改革▲4.7兆円、税源移譲3兆円、交付税改革▲5.1兆円)も縮小させ、地方自治の危機が促進されたことは明白です。

 門真市でも2004年から2006年での三年間で、国庫補助負担金、交付税など16億903万円の削減額が明らかになっています。

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2.国の関与・統制を強める「財政健全化法」


  ところが2007年6月15日に成立した財政健全化法は、国による行政的統制の強化が特徴で、「夕張ショック」に乗じて自治体の「自主的」リストラを促進する圧力となり、自治体財政運営に大きな影響を与えるものと予想されます。


  財政健全化法の第1条は、「この法律は、地方公共団体の財政の健全性に関する比率の公表の制度を設け、当該比率に応じて、地方公共団体が財政の早期健全化及び財政の再生並びに公営企業の経営の健全化を図るための計画を策定する制度を定めるとともに、当該計画の実施の促進を図るための行財政上の措置を講ずることにより、地方公共団体の財政の健全化に資することを目的とする。」と目的を規定しています。


  つまり「財政の健全化」が目的であり、住民が安心して住み続けることのできる地域・自治体の再建策ではありません。

  夕張市の「財政再建計画」が、「日本一高い負担と日本一低いサービス」を住民に押し付けることになり、市の財政は健全化しても、住民は夕張を離れ、職員も職場から去ってゆくことになった点からも明白です。


  国は自治体の施策に直接介入し、その引き下げを迫るのではなく、住民のくらしと権利を守るためにナショナルミニマムの向上や、自治体が地域実態に応じた施策の展開を図れるように、財源保障を行うことを基本とすべきであり、その立場から政省令の制定や運用を、政府に求めることが必要です。

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3.夕張市の破たんは政府の責任

  2006年に財政が破たんした夕張市は、2007年3月、「地方財政再建促進特別措置法(以下、「財政再建法」)に基づいて、「赤字再建団体」となり、政府の管理下で18年間に約353億円の借金返済にとりくむことになりました。そもそも夕張市の財政破綻は政府が進めた政策と深くかかわっています。


  第一は、国のエネルギー政策の転換にともなう後処理を市に肩代わりさせたことです。炭鉱会社の所有する土地や住宅、病院を583億円も支出して買い取ったのです。

  第二は産炭地に代わる観光などの公共投資にともなう莫大な債務を抱えたことです。


  第三は、三位一体の改革など国の行財政改革の影響です。夕張市の地方交付税は91年度と05年度を比較して単年度で約38億円も減っています。地方交付税の削減が財政破綻の致命傷です。


 しかも夕張市は、不適正・不透明な財政運営によって改善の機会を幾度となく逸し、問題を深刻にしました。


 つまり、夕張市の財政破綻の責任は、政府と北海道、市に求められるべきものであって、住民に転嫁する筋合いのものではありません。


 ところが同市では、総務省の関与のもとで「全国で最も低い水準となるよう徹底した行政のスリム化と住民負担増を図る」という、憲法や法律で保障した行政水準すら保障しない方針がまかりとおっています。そのため、全国から危惧と怒りが寄せられているのです。

 

 夕張市財政破たんの教訓  明確にすべき政府の責任 保母 武彦 2007年3月13日付「しんぶん赤旗」より

                                      

 

4.四つの指標の公表が義務 早期是正制度を導入

 

  財政健全化法は、これまでの財政再建法と違って、 四つの指標の公表が義務付けられ、早期是正制度を導入しています。


  これまでの財政再建法における財政再建団体は、実質収支額における赤字額が標準財政規模の5%(都道府県)または20%(市区町村)を超えた自治体が、総務大臣に申請して指定を受けた地方自治体のことをいいます。これは、あくまで自治体の申請が前提でした。


  それに対して財政健全化法は、「財政の健全性」を判断する指標(健全化判断比率)として四つの指標(@実質赤字比率、A連結実質赤字比率、B実質公債費比率、C将来負担比率)を導入して、そのうち一つが「一定の基準」以上になれば、早期是正団体となり、財政健全化計画の策定など、さまざまな措置が義務付けられ、国からの関与を強く受けることになります。


  また、これまでの財政再建法による財政健全化を示す指標は、普通会計が主な対象でしたが、今度は国民健康保険事業特別会計、公営企業や第三セクターなどの会計にまで拡大され、一方公営企業の経営の健全化を早期に促す制度も導入されました。
この法律は、名前でもわかるとおり、あくまで「財政の健全化」のみが目的であって、地方自治の再建・確立をその目的として明記していません。

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5.国からイエローカードと

    レッドカードの押し付け 導入

 財政健全化法により、四つの指標にもとづく「一定の基準」によって、「財政の早期健全化」段階と「財政の再生」段階のそれぞれに応じて、報告義務や国の勧告などの国からの強い関与がおこなわれます。


 「財政の早期健全化」段階は、いわばイエローカードともいうべき段階で、個別外部監査契約に基づいて監査を受けることと「財政健全化計画」の策定が義務付けられ、当該の自治体は国への報告義務を負います。

  財政の早期健全化が著しく困難であると認められるときは、総務大臣又は都道府県知事は、必要な勧告をすることができるとされています。


 「財政の再生」段階は、いわばレッドカードともいうべき段階で、「財政再生計画」の策定が義務付けられ、事実上、総務大臣の同意を得なければなりません。この同意を得なければ、地方債を発行できないことになります。
 財政再生団体の財政の運営が計画に適合しないと認められる場合等においては、総務大臣は、自治体の最も重要な権限である予算の変更等必要な措置を勧告できるという、たいへん強い関与を伴うもので地方自治の侵害ともいうべきものです。
 強い関与を行うという意味では、これは従来の財政再建団体とほぼ同様です。

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6.四つの指標で 財政健全性を判断.

  財政健全化法により、四つの指標で財政健全性が判断され、指標のいずれかが早期健全化基準以上の場合、首長は財政健全化計画策定を議会の議決を経て定めることが義務付けられます。


  さらに以下の@からAの指標のいずれかが基準以上になれば、首長は財政再生計画を議会の議決を経て策定することになります。いずれも公表し、総務大臣に報告しなければなりません。


  四つの指標は次のとおりです。門真市にとって、「A 連結実質赤字比率」が問題となります。


@ 実質赤字比率
  これは、決算カードにある一般会計の実質収支額の標準財政規模(標準税収入額+普通地方交付税額+地方譲与税)に対する割合を言います。これは財政再建法においても一定の指標とされました。


A 連結実質赤字比率
  全会計の実質赤字等の標準財政規模に対する比率です。これは「連結」で行われます。


 門真市も「連結赤字収支比率が14・6%とし、(全国ワースト)26位」となっていることが、2007年6月3日付「日本経済新聞」で報道されました。
 門真市の連結赤字収支比率が「14.6% 26位」となったのは、国民健康保険事業特別会計の赤字額によるものです。

 17年度の決算によれば国民健康保険事業特別会計は単年度赤字が8億5902万3千円となり、累積(実質収支額)が50億6296万8千円の赤字となりました。

 一方、一般会計は2億4361万6千円の黒字となっています。

   18年度の決算では、国民健康保険事業特別会計は、18年度も7億9154万1千円赤字額が増え、累積(実質収支額)が58億5450万9千円の赤字となっています。

 

財政健全化法にもとづく 門真市の4 指標 (平成19年度決算ベース)が明らかに



列島発 自治体の財政指標 「黄信号」回避 険しい道 大阪府門真市 2008年10月6日付「朝日新聞」より

 

財政破綻指数複数に 「連結赤字比率」市町村は30%以上  総務省が基準決定 2007年12月7日付「朝日新聞」夕刊より


B 実質公債費比率


 上水道や交通など公営企業の支払う元利償還金への一般会計からの繰り出し金、PFIや部事務組合等の公債費類似経費も含めて地方債の元利償還金を分子に、標準財政規模を分母にしたもので、従来の起債制限比率より、連結決算的な側面が強まりました。


 これは現在でも起債を制限する基準に使われており、25%以上で庁舎建設など単独事業の地方債発行を制限し、35%以上で国が補助する道路整備など「最低限」の事業でも起債が禁じられ、現在北海道歌志内市、上砂川町が適用されています。


C 将来負担比率
 公営企業、出資法人等を含めた普通会計の実質的負債の標準財政規模に対する比率です。「将来負担比率」では、全職員が一度に退職したときの退職金総額を計上しなければならず、過大ではないかとの批判が出ています。


 自治体には、毎年、四つの指標の公表を義務付けられ、自治体間の比較が容易におこなわれます。
反面、数字が独り歩きするおそれもあり、住民本位の財政運営に生かすためには、議会や住民、職員らも地方財政全般の学習・研究、調査・分析活動を合わせて進めることが不可欠です。


 門真市職労も2007年11月13日に大阪自治体問題研究所理事・研究員の初村尤而氏の協力で財政研究会をスタートします。

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7.財政健全化法施行前に、多大な影響


 財政健全化法は、一部の条項を除き2009年4月1日から施行されます。

 しかし、施行日をまって初めて威力が表れるのではなく、2009年度は2008年度決算にもとづく指標で判断されますから、2008年度の予算編成が行われている今日、すでに財政健全化法の4指標を下げることを理由に、行政水準の引き下げ、職員削減や賃金引下げ・非正規化などの人件費抑制、公立病院や公営交通の民間移譲などの自治体リストラが財政健全化法を理由に広がっています。


 また、財政健全化法の2008年度決算からの適用を前に、政府は、財政健全化計画や公営企業経営健全化計画を策定する自治体に対して、2007年度から3年間で5兆円規模の公的資金の繰上償還(補償金なし)を行うとしており、将来負担比率等の指標を改善するために繰上償還を迫られる自治体は人件費削減などをさらに進めることになります。したがって、財政健全化法に対する取り組みの強化が急がれます。

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8.基準値―自治体の意見を聞き

  今年12月までに政省令で確定

 
 「財政健全化判断比率」の数値等は、財政健全化法公布後一年以内―今年12月までに政府は政省令によって定めることになっています。

  11月13日付の朝日・毎日新聞報道によれば、4指標のうち、「実質赤字比率」と「実質公債費比率」の2指数が明らかになっています。「総務省は、近くこれらの基準値や方向性を自治体に示し、年内に4指標の基準値を確定する」としています。

 全国総務部長会議で自治財政局長は、「『財政健全化判断比率』については、みなさんの意見を十分に聞きながら準備作業を行いたい」と述べており、自治労連が9月27日におこなった総務省との交渉でも「地方公共団体の意見をしっかり聞く」と答えていることから、政省令づくりに向けた運動がきわめて重要です。


 そこで第一に、政省令の制定と運用にあたって、徒に国が自治体の財政運営に直接介入して自治体リストラを強要することのないようにすること。


 第二に、自治体の規模や特性、地域の実情、住民のくらしを保障する公営企業に配慮した基準をつくること。


 第三に、連結実質赤字比率では、住民のいのちとくらしにかかわる国保などの特別会計など、事業の性質上、やむをえず生じる赤字を考慮した基準にすることをもとめることなど、現場の声を集め要請しましょう。

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 小規模市町村の財政健全化計画 赤字10%で策定義務へ 総務省方針 2007年11月13日付「朝日新聞」より

財政破綻指数複数に 「連結赤字比率」市町村は30%以上  総務省が基準決定 2007年12月7日付「朝日新聞」夕刊より


9.憲法が生きる地方自治の確立、

             自治体財政の拡充を


 財政健全化法の内容を正確に理解し、財政健全化法を口実にした自治体リストラを許さず、地方自治の本旨にたった行財政運営を図らせることも重要です。


 門真市職労は、実際に決算資料をもとに数式に当てはめて4つの指標を試算し、あるいは財政分析をおこなって、住民の立場に立った財政運営を求める運動に取り組みます。

 2007年11月13日に大阪自治体問題研究所理事・研究員の初村尤而氏の協力で財政研究会をスタートします。


 同時に、地方財政の危機をもたらしている原因を明らかにし、地方財政確立に向けた運動が求められています。

 自治体首長・当局に対して、地方財政危機を招いた主な原因が、三位一体改革など国の財政運営、税財政「改革」と、国の経済対策に追随した自治体当局にあることを指摘し、格差是正と地方自治拡充のために国の税財政政策を改めされる先頭に首長が立つことを求めます。

 2007年11月6日に、門真市職労は門真市長に要求書を提出しました。


 また、地方自治の疲弊を救い、地域間格差を是正するため、政府に地方財政計画の規模の拡大を求める自治体関係者の共同した運動が求められます。なかでも、地方交付税制度は、分権型福祉社会、持続可能な社会の構築にとって不可欠なしくみとして堅持、充実させることが重要です。

 先の参議院選挙(2007年7月)の結果は、「貧困と格差」を広げた弱肉強食の「構造改革」政治、「戦後レジームからの脱却」を掲げた憲法改悪への暴走に対して、国民が「NO!」の審判を下しました。
いま「構造改革」の一環としての「地方分権」ではなく、自治体財政を拡充させ、地域経済を振興させ、憲法が生きる地方自治を確立させる可能性は広がっています。


 「構造改革」による地方切捨て、住民のくらし福祉切捨ての政治の転換、地方財政の拡充とくらし、福祉、教育の充実を求めて、全国津々浦々から自民・公明連立政権に迫るたたかいは、2007年秋季・年末の重要な運動課題です。

 

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財政健全化法にもとづく 門真市の4 指標 (平成22年度決算ベース)が明らかに

財政健全化法にもとづく 門真市の4 指標 (平成21年度決算ベース)が明らかに

財政健全化法にもとづく 門真市の4 指標 (平成20年度決算ベース)が明らかに


財政健全化法にもとづく 門真市の4 指標 (平成19年度決算ベース)が明らかに


列島発 自治体の財政指標 「黄信号」回避 険しい道 大阪府門真市 2008年10月6日付「朝日新聞」より

 

財政健全化法にもとづく門真市の4指標(平成19年度決算ベース)が明らかに

財政破綻指数複数に 「連結赤字比率」市町村は30%以上  総務省が基準決定 2007年12月7日付「朝日新聞」夕刊より


「門真市 連結赤字収支比率が14.6% 26位」を考える (素案)

 

自治体財政健全化法 総務省が破綻基準 公債費率35%で再生団体へ 25%で早期健全化団体  2007年11月14日付「毎日新聞」より


小規模市町村の財政健全化計画 赤字10%で策定義務へ 総務省方針 2007年11月13日付「朝日新聞」より

門真市職労が財政健全化法の施行に係わる要求書を提出