「このままでは『夕張』のように国の管理下に置かれてしまう」。15日
に成立した地方自治体財政健全化法は、新しい財政指標で自治体財政の健全度を測る。シビアな財政運営を求められる同法がスタートする2年後をにらみ、立て直しに走る市町村が相次いでいる。公表された財政データを基に市民も監視の目を強めた。
「再生団体」回避へ残り時問は2年
自治体 赤字減に奔走
議員「議員報酬の削減は段階的にやるべきだ」.
町長「あなたたちの生活費が必要なら昼間働けばいい。議会を夜にやりましょう」
5月下旬、青森県今別町議会の全員協議会。町提案の財政再建策を巡り、怒号が飛び交った。
水道料金の35%増、議員報酬の40〜50%削減、町長給与や議員報酬カットー。苛烈な再建策をこの時期にまとめたのは「地方自治体財政健全化法」の成立が目前に迫っていたからだ。
同法成立後、自治体は08年度決算から新しい財政指標で評価される。指標が特に悪いと「財政再生団体」になる。連結実質赤字比率はその一つ。08年度予算を編成する今年度が正念場だ。
町の普通会計は黒字だが、国民健康保険と介護サービスで大きな赤字を抱える。本社試算をみても、連結実質赤字比率は全国ワースト50位内に入るマイナス11.7%。
今年度と来年度の2年間で赤字を確実に減らさなければ「夕張同様、国の管理下に置かれかねない。
5月29日の臨時議会で、再建策は反対5、賛成4で否決された。小鹿正義町長は再建策を練り直し、21日から始まる6月定例議会に再提出する。
43市町村のうち泉大津市、大阪市など24市町が連結赤字の大阪府。連結実質赤字比率で全国ワースト8位(本社試算)で府内で同1位になった泉佐野市の幹部は「ようやくトンえルを抜けたと思ったのだが…・」と、同法成立にため息をついた。06年度普通会計決算が8年ぶりに黒字になることが確実になった矢先だったからだ。
関西空港の一部を市域に持つ同市は90年代、将来の税収の大幅増を見込んで過大な公共施設整備を進めた。バブル崩壊後、税収は激減する一方、借金は膨らみ、04年に財政再建団体転落寸前まで追い込まれた。
新田谷修司市長は同年3月に「財政非常事態」を宣言。
一般家庭ごみ収集有料化や公共施設使用料の値上げなど、市民にも「痛み」を求める対策で再建を進めてきた。その成果が、普通会計の黒字化だった。
だが、財政健全化法で
連結の対象となる同市の公営事業会計は、地価下落で売るに売れない用地を多く抱えるなどの理由で膨大な赤字を抱える。
市行財政管理課は「どの程度の赤字比率なら、国が『健全化団体』や『再生団体』にするのかまだわからない。基準次第で再建の進め方も変えなければならないだろう」と危機感を募らせる。
沖縄県宮古島市では5月末、伊志嶺亮市長が市内の5庁舎全部を回り、職員に訴えで歩いた。
「今後2年がわが宮古島市の将来を左右する。不退転の覚悟で財政再建に取り組もう」。
市の連結実質赤字比率が約33%(本社試算)と極端に高いことが、異例のてこ入に向かわせた。
高齢化や低所得者の増加といった地域事情から、国民健康保険や介護保険など福祉分野の事業会計に膨大な赤字を抱えてしまうケースもある。
大阪府門真市の累積赤字は国民健康保険会計だけで約51億円。生活保護の受給率は人口千人あたり40人(※6月18日付朝刊で訂正)と全国的に見て突出して高く、8割を切る保険料の収納率の低さが背景にある。
(錦光山雅子、青池学、加戸靖史)
連結赤字の評価原因を見極めて
小西砂千夫・関西学院大教授(財政学)の話
連結赤字の評価では、原因となった事業の特性を見極めることが重要だ。
過疎地の病院を閉めて赤字を解消すれば、患者は行き場を失う。
高齢の加入者が多い国民健康保険で、保険料の引き上げによる収支改善には限界がある。
一方で、自治体による観光事業は本当に必要なのかどうか。農山村では下水道よりもコストの低い合併浄化槽で十分ではないのか。
これまで隠れていた赤字が表に出てきたのだから、議論のきっかけにするべきだ。
財政健全化法を考える
自治労連が財政財政健全化法のパンフレットを発行
164市町村
連結赤字 財政健全化法成立 新指標 2007年16日付「朝日新聞」より@
「うちは大丈夫?」公表データ分析
市民に広がる監視の目 2007年6月16日付「朝日新聞」よりB
「門真市 連結赤字収支比率が
14.6% 26位」を考える